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ー今までオキャロランのカヴァーをしたことはなかったんですか?
小川:トラディショナルならアルバムの中に一曲入れたり、オリジナルの中に1フレーズ忍ばせたりしてます。「Si Bheag, Si Mhor」はオキャロランの代表曲のようなもので、ピエール・ベンスーザンがカヴァーしてます。オキャロランの曲は他にもジョン・レンボーンやダック・ベイカーらもカヴァーしていて、最初にとりあげたのはディヴィ・グレアムだと思います。ブリティッシュ・フォークの人たちですね。ハープの曲ですが、彼らによってギターにあうということが示されました。オキャロランの楽譜というのはメロディしかなく、伴奏は書いてません。このためギターでは自由にコードをつけられます。オキャロランも当時、どんな伴奏をつけてもいいと認めていました。素材としてはとても魅力的ですね。
ーアレンジするギタリストによって全く違う曲になりそうですね。
小川:そうですね。ベンスーザンが弾くのとダック・ベイカーが弾くのでは全然違いますし。面白いですね。
ー私はオキャロランという名前を初めて知ったのですが、曲はどこかで聴いていたのでしょうね。
小川:そうでしょうね。ステファン・グロスマンの教則ビデオでもオキャロランはとても多いです。エル・マクミーンもあります。ただ、僕の中では彼らのアレンジがオキャロランの決定版のようになっているので、そこから自分なりに新しくするのはとても難しかったんです。日本人として、21世紀として、ロックや現代音楽などいろいろな音楽を聴いてきた上で、オキャロランを解釈したらどうなるか、というのを考えてみました。
若い頃に出そうと思ってたのですが、決定版があったのでずっと躊躇してました。自分がアーティストとして確立していなかったし、今出してしまうとベンスーザンらのコピーになりそうでした。なのでずっと待って、やっと自分のオキャロランが弾けるのではないかと思い、自分の音楽の蓄積を反映させてみました。
ー現在のメインギターであるローデンを選んだのはどういったところからでしょう。ギターそのものなのか、ベンスーザンが使用していたからなのか。
小川:ベンスーザンの影響もありますが、まず音を気に入りました。当時はラリビーも候補でしたね。
ーマーチン、ギブソンなどは検討しなかったんですか?
小川:なかったですね。好きなギタリストのベンスーザンやリチャード・トンプソンがローデン使っており、形、デザインも気に入りました。
ーマイケル・ヘッジスはマーチンD-28を使用してましたが気にならなかったですか?
小川:ヘッジスはレコーディングではマーチンを使ってなかったことを知ってたので。アーヴィン・ソモジやデュボーグというギターでレコーディングしているとライナーで読みました。マーチンはライブ用ということです。マーチンも好きですが、当時は選択肢になかったですね。そして最初に買ったローデンが自分にとても合ってました。他のギターを弾いても結局ローデンに戻ってくる。自分の音楽に合ってるんですね。
ーアイリッシュ系では人気がありますね。
小川:そうですね。日本ではあまりメインで使われてないようですが。僕はすっかりローデンのイメージですね。エンドースしてないですが(笑)。「太陽と羅針盤」を聴いてローデンを買ったという人がかなりいます。ホームページにこの音を出したいんです、という問い合わせがたくさんきました。あと、ジェームス・オルソンのギターもジェームス・テイラーが使っていたので興味がありました。ただ高かったですね。ローデンは20万円ちょっとくらいでしたがオルソンは70万円くらいはした。手が出なかったですね。 いくつかギターは使ってますが、他の人たちも僕にはローデンが似合うといわれます。たまにローデン以外のギターでライブをすると怒られます(笑)。「太陽と羅針盤」だけでローデンのイメージは植え付けられたようで、あのイントロはローデンじゃないとでない、といわれます。
ローデンが自分の音楽にあってるんでしょうね。日本のハンドメイドもいい音ですがどうも自分の音楽には合わない気がします。今でも楽器店で高いギターを試奏して、いい音だなとは思っても買うまでにはいたらないし、あまり高いギターを買おうとは思わない。ギターは道具だと思っているのでインレイががっちり入っていたり、コレクターのにおいがするのはあまり好きじゃないですね。
ーご自身の活動としては、作曲、レコーディングが中心ですか?
小川:ライブと半々くらいですね。まずいい曲がないといい演奏ができない。フィンガーピッキングのギタリストは自分で作曲しますよね。そうするとクラシックなどに比べると作品が弱いと感じる場合が多いです。クラシックには名曲がたくさんあります。曲の構成がいいと表現も豊かになります。貧弱な曲だと自分の演奏の良さがだせない。技術があっても曲が弱いギタリストは損してると思いますよ。自分でいい曲を作って、いい演奏をするという意識は強いです。普遍的にいい曲を作りたいですね。今だけの、テクニックだけの曲ではなく、何年たっても通用するような曲を作りたい。オキャロランはいい曲がたくさんあり、全ての曲がいいという訳ではないですが、いい曲はいろいろな人に演奏されています。自分の曲でも10年前に作った曲を今でも弾けているというのは、よかったんじゃないかと思います。いい曲であれば演奏してまず楽しいですし。自分は元々ギタリストというよりは作曲家、コンポーザーだと思っています。いろいろと実験してみたいんですね。古典の完成された曲もいいですが、自分で曲を作っていろいろな実験をして、楽しみながら演奏する。
いわゆるフィンガーピッキングのギタリストはまず、ギタリストという意識が強いと思います。作曲に力が入らず、テクニックに力を入れたり奏法が派手になったりと。しっかりとした曲を作るには時間が必要で、ライブの時間を抑えることになってしまいます。
ーレコーディングはどのように行っているのでしょうか。
小川:自宅がスタジオになっています。ファーストアルバムからずっと自宅で録音してますね。何度か他のスタジオで録音したりエンジニアに依頼したこともありますが、どうしても納得した音が録れなかった。多分、どんなに優れたエンジニアでも僕のローデンの特性を知るまでに時間がかかると思います。自分であればどこがスウィートスポットか、どこにマイクを立てればよいかなどをわかっているので、そういう時間を省くことができる。ギターによって録音のポイントは変わってくるし、同じローデンでも変わってきます。録音する場所のどこがいいかなども理解しています。
高校生から録音してきた積み重ねで、随分回り道をしましたがノウハウをわかっているんです。それらをエンジニアにわかってもらうことは不可能なので、一番いい音で録るのは、自分でやった方がよくなってしまいますが、録音は好きなので苦になりません。納得した音は自分にしかできないのでしょう。
ー他のギタリストは録音は別のスタジオなどで録っている場合が多いのではないでしょうか。
小川:みんな納得してるんですかね。それとも割り切ってるのかわからないですが。僕は録音マニアなところがあるので(笑)。子供の頃から録音が好きで、MTRをよくいじってました。録音は発表するためだけの記録ではなく、録音芸術というのが好きなんです。ビートルズのジョン・マーチンの仕事や、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンの仕事とかを見ると、録音でしか表せない音楽というのを感じます。ライブでは出せない、録音でしか表せない音楽もあるんです。ライブと録音は別物で、録音の芸術として独立した物として考えてます。ただ10曲できたからスタジオで録音して発表します、というのは好きじゃないんです。もっとコンセプトを練りたいんです。このアルバムはどんなサウンドで録りたいのか、エフェクタはどれを使うのか、とか考えます。
ーギタリストであり、作曲家であり、エンジニアでもあるんですね。
小川:そうですね。全部自分でやりたいんですね。
ー普通のギタリストはライブでのシステムは把握していて、どういうようにエフェクターを設定したりとかは問題ないと思いますが、録音となるとそうはいかないんと思いますが。
小川:そうですね。システムが全く異なってきます。マイク録りが基本ですし。他のギタリストはライブでもエフェクターをどういう意識で使ってるんでしょう。やむを得ず使ってる人も多いんじゃないでしょうか。もちろん好きな人はいるでしょうが。
ー他のギタリストのエンジニアとしてのプロデュースもよさそうですね。
小川:今までに何枚かプロデュースをしています。ソロギターだと、野沢享司さんのアルバム「FENDER BENDER」を手がけました。半分は歌ものでイサトさんが手がけ、半分のインストは僕がやってます。
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小川倫生 http://ogawa-michio.com
1974年生まれ。
5才からクラシックピアノを始め、中学二年生でギターを始める。
高校1年生の6月にカセットレーベル「Greenwind Records」を設立。
1998年にファーストアルバム「太陽と羅針盤」リリース。
1999年にギタリストのPeter Fingerが主宰するドイツのレーベルAMRのコンピレーションアルバム「Acoustic Guitar MADE IN JAPAN」に参加。
2001年2ndアルバム「スプリングサインズ」リリース。
2003年3rdアルバム「Night Jasmine」リリース。
2006年4thアルバム「PROMINENCE」リリース。
2012年5thアルバム「Si Bheag,Si Mhor」リリース。
2014年プロデューサーとして東日本大震災復興支援プロジェクトCD「木を植える音楽」を担当。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
スプリングサインズ
発売時期:2016年6月17日
レーベル:Greenwind Records
販売価格:2,500円+tax
Spring Signs (disc 1)
1.April Collector
2.Miss Eliza Green
3.Magnolia
4.Bob's Popo
5.Maggie's Kitchen Garden
6.Almost Summer
7.Two Years Or Three-The Gardener
8.Windy Afternoon
9.The Major Flower Pot
10.Dazzling Blue
11.Starry
12.Astral Twins
13.Spring Loops
Spring Analyze (disc 2)
1.冬の終わり
2.Spring Fever
3.Slighting Song
4.High Exposure
5.Resilience of Season
6.曇りのち雨
7.夜明けのバイオスフィア part.1
8.Star Terrace
9.Nectarine Sweet
10.April Collector (Bright Moment Mix)
11.夜明けのバイオスフィア part.2
12.Lomo
13.Gradiva
14.潜水艦の影
15.Spring Lines
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LAST TRAP
販売価格:2,500円(税込)
レーベル:Denpo-G Studio
1. Sagitarius
2. 旅の座標
3. Reynardine
4. Nine Apple Seeds
5. Updown Highway -中国自動車道に捧ぐ-
6. Last Trap Blues
7. The Water is Wide
8. Night Jasmine
9. Quantje suis mis/Tourdion
10. Jock O'Hazeldean
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