
ギター路地裏 第87回 私とクラシックギター その1
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
私はアコースティックギターとクラシックギターの異種両刀使いですが、その原点ともなったクラシックギターの名器との出会いについて、いろいろと書いてみます。
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「ギタリストになりたい」
というか、「ギターが弾けるようになりたい」という思いで、高校卒業と共に私はギター専門学校である国際新堀芸術学院に通い始めました。
祖母が持たせてくれたホセ・ラミレス(1993)を手に、右も左もわからないまま音楽の生活に入り、毎日必死でした。
3年目に入り、毎日ガリガリ練習を重ねている私を見込んでのことなのか、とあるコレクターの方が60年代のハウザーⅡ世をお貸しくださったことがありました。それが私と(いわゆる)名器との最初の接点です。
非常に重みのある低音。野太い高音。抜群の分離。単に「鳴っている」ではない、音の力に満ちた名器でした。
そのギターは結局2年に渡り借りっぱなしで、ソロもコンチェルトもこれで弾きました。
卒業と同時にハウザーはお返ししました。今思うと、このハウザーが私の耳と心を目一杯鍛えてくれたと思います。良い楽器とはここまで力のあるものなのだと知ることができました。本当にありがたいことでした。
ただ、ハウザーをお返しした後は、今まで鳴らしていた音が私の人生から消えたように感じ、心に隙間風が吹くような一時期を過ごしました。
次に手にしたのがスペインはグラナダの名工アントニオ・マリンです。
ハウザーにはないしなやかさ、あたたかさを持つマリンですが、同様にきちんとした分離も持ちあわせているギターでした。私はこの「音の分離」に、知らず知らず敏感になっていたのかもしれません。間違いなくハウザーとの2年間によって養われた感覚です。ウォームな響きを求めすぎない指向性は、今も変わっていません。

(アントニオ・マリンと黒歴史のパーマくん)
マリンは私の活動初期に大活躍してくれました。常に私に寄り添うような感覚があり「相棒」といった存在でした。しかしある時から、学生時代に強烈に感じていた「自分が鍛えられる感覚」が、まだまだ私には必要なのではないかと考えるようになりました。マリンは良き兄貴ではありましたが親分という雰囲気ではなく、30代に入ったタイミングは自分を鍛え直す良い時期にも思えました。
その時、持ち替えの候補にあったのはイグナシオ・フレタ(1972年のイーホス)でした。
ほとんどフレタに傾いていたのですが、ちょうどそのタイミングで事件が起りました。
いわゆるリーマンショックです。
その影響で普段お目にかかれないような名器が大量に店頭に並び始めたのです。
「今、とんでもないハウザーⅡ世が入荷している」という情報を得て見にいくと、たしかにとんでもない。今までのどの楽器よりも強烈な「親分風」を感じました。1960年製。

(親分と私)
私が学生時代にお借りしていたものより、はっきりと格上。重厚な世界観はハウザーらしさとして共通していましたが、音の透明度が信じられないレベルでした。その純度の高さは、「音色」という世界を超越して響きそのもの。無色でありながら深い胴鳴り。
Ⅱ世が得た到達点ではないかと思わせるものでした。強い材が使われ、コンディションも良く、私はこの親分についていくことにしました。(つづく)
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入
学。1998年卒業後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年ギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリー
ス。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリ
ース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
2020年Indigo Noteの2ndアルバム「Long Way」リリース。
2021年7thアルバム「Little Letter」リリース。
2023年ピアノ&パーカッション奏者AkiとのデュオLuna y Alas結成。
2024年Indigo Noteの3rdアルバム「Lively Garden」リリース。
2026年Luna y Alasの1stアルバム「月と翼」リリース。
ライブ本数は累計1500を超え、現在も常に日本全国で演奏活動を展開中。

【2026/9/2】 |