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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


ギター路地裏 第88回  私とクラシックギター その2

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
アコースティックギターとクラシックギターの異種両刀使いの私。
その原点ともなったクラシックギターの名器との出会いについて綴った第2回目です。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

ヘルマン・ハウザーⅡ世(1960)を手にしてから、の続きです。
このハウザーは、アコースティック・ギターのKen Oya(2008)と共に、私の揺るぎない芯のような存在であり続けました。

アントニオ・マリンもしばらく所有していましたが手放し、ハウザーと大屋ギターのコンビで10年ほど活動をしていくことになります。

そんなこんなの2019年、忘れ得ぬ出会いがありました。
ヘルマン・ハウザーⅡ世(1958)です。
同じ時期のハウザーⅡ世に、完全に心を奪われてしまいました。

ヘルマン・ハウザーⅡ世

左:1960年 右:1958年

楽器店様のご厚意により、1958年を持ち帰って検討をさせていただきました。

コンディションや風格は1960年の方が仕上がっていましたが、1958年には音の指向性に非常に説得力がありました。
コンディションはかなりボロボロで、各所に修理歴だらけの個体。
厳しい検討の末、私の決断は「持ち替えはしない」というものでした。
同格ならば、今まで鍛えてくれた、手に馴染んだハウザー1960年を手放すのは良くないだろうと・・・

楽器店様に出向き、1958年をお返しし、楽器を長くお借りしたことへの感謝の意を伝えて後にしました。
その帰り道。
なんと涙が溢れてくるではありませんか。
今までの人生で楽器との別れで後悔をしたことはありませんでした。
なのに今回だけは「あの音にもう出会えない」と思うと泣けてきてしかたなかったのです。

翌朝一番に再度楽器店に電話をし、今度は1960年を置いてきました。
今度は涙は出ません。なんという薄情かと自分でも呆れもしましたが、心に正直にいる事の大変さも学んだ気がしました。
自分の歴史の中でも大きな決断でしたが、自分の世界は確実に変わりました。

まず、クラシックギターで曲が作れるようになりました。
今までは曲ができるのは専らアコースティックギターのみで、ハウザー1960年で書いた曲は「Inner Medium」のみでした。
それが、1958年を手にした瞬間、5,6曲同時に湧いてきて、しかもすぐに楽曲としての形になりました。

今でも私の所有していた1960年は、全てのハウザーの中でも名作だったと思っています。
研ぎ澄まされた透明感と音の存在感は、ハウザーとしての到達点のひとつでもある、そんな風格の楽器でした。
しかし1958年は、ギターというものがスパニッシュ由来の構造を持つものであるということを、とても強く感じさせました。
1960年は研ぎ澄まされた透明な音色と太い芯を持っていましたが、1958年は透明でありながらしなやかなに伸びる音を持っていました。言い換えれば音が音だけで意味を持ち、言葉になる感覚。
言葉というものを大事にとらえている私にとって、その違いは大きなものでした。

伊藤賢一

厳しい「親分」の元を離れ、得難い「同志」との出会い。
しかし私の旅はまだ続くのでした・・・・

つづく





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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入
学。1998年卒業後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年ギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリー
ス。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリ
ース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
2020年Indigo Noteの2ndアルバム「Long Way」リリース。
2021年7thアルバム「Little Letter」リリース。
2023年ピアノ&パーカッション奏者AkiとのデュオLuna y Alas結成。
2024年Indigo Noteの3rdアルバム「Lively Garden」リリース。
2026年Luna y Alasの1stアルバム「月と翼」リリース。
ライブ本数は累計1500を超え、現在も常に日本全国で演奏活動を展開中。




【2026/9/2】
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