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海の向こうのギタリスト本人の演奏を目の当たりにしない限り、正解の確証は得られません。曲によっては3~5年かかりで95点くらいと思っても、あとの5点は何か違うんです。技術的にできていないのではなく、何かポジションが違うとか細かいところです。今は動画でなんでも見れるので、あの頃僕らがやっていたことを考えると夢のような時代です。
その時のセミナーで一番影響を受けたエピソードがあるのです。実はイサトさんは当時サムピックを使っていて、僕も他の生徒さんも全員真似して使っていました。あの日僕はジョン・レンボーンに習ったわけですが、横からステファン・グロスマンが僕やイサトさんにサムピックはやめろとしきりに言うのです。帰りにイサトさんと僕は、ステファンはあんなにサムピックやめろと、くどいくらい言っていたけどどうなんだろう?という話をして、やっぱり生の指で弾くのがいいのかなと思い、僕はその後サムピック無しで練習を開始しました。
それから半年後くらい経ってイサトさんと電話で話して、僕はもうサムピック無しで弾いていますよ、というとイサトさんは「ボクはまだ全然」と言うのです(笑)。練習はしているけれどもライブが頻繁にあり、ライブでは中途半端に指では弾けないので、まだまだ時間がかかると言っていました。アマチュアと違ってプロはこういう時は意外と面倒だなと思いましたね。
ほかにも、マイケルヘッジスの初来日時、やはりイサトさんに声をかけてもらって、大阪の会場で一緒に楽屋を訪問してギターを弾いてもらった事がありました。マイケルヘッジスとはその数年後、今度はタカミネのカタログ用の撮影で新宿のホールでリハーサル時に再会しました。その時は彼もたっぷり時間があったので、ステージの隅っこで僕と二人だけで「Ragamuffin」を何度も弾いてもらって、おまけにその模様をビデオに撮らせてもらいました。これは今でも宝物ですね。
タカミネの仕事では本当にたくさんのアーティストと会う機会があり、ライクーダーとも初来日を含めて2度、僕の趣味とは違いますが、ミックジャガーやブルーススプリングスティーン、ジャクソンブラウン、数え上げたらきりがありません。もちろん国内の有名アーティストも大勢いました。それぞれ一人一人とのやり取りの回想録で別の記事がかけますよ(笑)。
そうそう、最後に一番最近では2017年にドン・ロスのライブで僕はオープニングをやり、リハーサル中に今日の最後に1曲一緒に弾こうという事になって、二人で選曲に悩んでいた時、ふと無意識に僕が弾いたフレーズを聴いて彼が「それはブルースコバーンの曲か?」と訊いてきて、僕もそれで気が付いたのですが、彼はカナダの人なのでやはりブルースコバーンからはかなり影響を受けているようで、曲は相当熟知している様子でした。それで「 Rouler Sa Bosse」という曲を一緒に弾いたのですが、すごく多彩で実に気持ちのいいオブリガードを入れてくれました。あの演奏で味わった気分は忘れられません。
ーリリースされたアルバム「 ONCE AND FOR ALL 」ですが、数年前から制作は始まっていたのですか。
シオミ:はい、僕はこれまでプロギタリストとして活動していた訳ではありません。もういい年齢ですから、ここへきて一度きちんとギターを納得するまで弾いておかないと、そのうち弾けなくなった時、きっと後悔するという気持ちが芽生えて、5年くらい前からライブを始めたんです。
これまでデモ演奏やイサトさんのライブやビデオに出させていただいたことはありますが、2時間ソロで自分のライブをするということはなかったんですね。
はじめてから2年くらい経ってだいぶ手応えが出てきましたが、自分のいる愛知県内でしかやれていないので、名刺代わりにCDでも作ってみたら活動の場が広げられるかなと考えました。
制作については岸部(眞明)くんに相談しました。なにしろ、録音から始まって、CD作りの工程すべてが初めての事ばかりなので、クオリティを下げないためにも彼の経験を頼りに進めたいと考えました。
岸部くんは自分が使っていて信頼のおける大阪のスタジオを勧めてくれて、僕は愛知からでは遠いのであまり乗り気ではなかったのですが、1泊2日で1日3曲録れば2日で6曲、2回行けば12曲録れる、みたいな話で納得してしまい、大阪で録ることに決めたのですが、実際は5,6回大阪に行きました(笑)。最初は予定通り2日で6曲録れたのですが、その後コロナ禍に見舞われ、しばらく大阪へは行けなくなったんですね。
岸部君に相談したことによって、CDに入れる内容も当初の考えとずいぶん変わりました。YouTubeにあげるためアレンジをたくさんしていたのでアルバムもアレンジ中心と思っていましたが、岸部くんからは1枚目はオリジナル曲中心にした方が良いと言われました。それでアルバム作りのためにオリジナル曲を作り始めたのです。
また、岸部くんとのデュオは、イサトさんの「Orange」という曲にするつもりでしたが、「Orange」は有山じゅんじさんとの印象的なバージョンや、他の人との共演もあるので、イサトさんへのリスペクトはそれとして、曲はやはり新しく作った方がいいんじゃないか、ということになりました。
岸部君の豊富な経験を頼りにCD作りのアドバイスを依頼したまでは良かったのですが、出てくる話は自分にとっては面倒な事ばかりでした(笑)。しかし、終えてみて今では彼のアドバイスに従っておいて良かったと感謝しています。
ーオリジナル曲はすべて最近作られたのですか?
シオミ:「C# Rag」はイサトさんの教室の通ってる頃に作った曲です。もう作ってから50年近くたちます。ものすごい昔の曲ですが、ラグというのはあまり新しい、古い、という感じがしないと思います。自分でいうのもなんですが、当時でも完成度はまあまあだと思うので今弾いてもおかしくないかなと思ってます。
あとはYouTubeをやり始めて12,3年の間に作った曲が2曲、それ以外はこのアルバムに合わせて作った曲です。コロナ禍で大阪に行けなくなり、録音が長期にわたり中断されると、最近作ったばかりの曲は弾いているうちに時間と共にフレーズが変わったりして、自身でも最近弾いている方がシックリくると感じてしまうと、以前に録音したものを録り直したくなったりしました。
オリジナル曲を作るという行為に対しては、ライブを始める以前はそういうモチベーションがまったくありませんでした。YouTubeをやっていて視聴数を稼ごうとすると、アレンジ曲にはやる気が湧くのですがオリジナルでは見向きもされません。そもそも検索されないわけですから。けれどオリジナル曲を作ろうと取り掛かってみて、意外に曲はスラスラと作れたかなと思っています。M-Factoryの三好君と話していて、彼が言っていたのですが、「僕たちには伸びしろがたっぷり残されてますからね」というのです。彼はその昔、倫典さんの教室から合宿に来ていたその頃からの友人ですが、確かに彼も僕も演奏でプロ活動をしてきたわけではないので、まったく手付かずの能力が眠ったままになっているのかもしれません(笑)。
ーアルバムのどういう所を聴いてほしいと思いますか。
シオミ:発売してから、いろんな声が聞こえてきました。「懐かしい感じ」とか「優しい音」「キレイな音」「心地良い」とか、あと「曲の配置がいい」とか、自身がイメージしていたギタリスト像とまったく違う声に驚いています。配置は岸部君の意見で、これまた自分の当初の考えとは全く違う曲順で並べました。なので、これもどこか他人事のように感じている部分があります。
そんなわけで、どこを聴いて欲しいとこちらから言えるポイントのようなところがまったく自身で見えなくなっているのです。
ただ、エフェクトなど極力控えめにしているので、宇宙にいるような感じではなくて、アコギの自然な音を地に足をつけて弾いているところを聴いてほしいですね。録音だけでも2年かかりましたので、その間で録り直しした曲も半分近くありますし、どの曲も同じくらい手間をかけて作っています。録音代もその分掛かっていますし、ジャケットの仕様に至るまでコストはふんだんにかけています(笑)
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シオミモトヒコ
https://donighdecker.wixsite.com/eadgbe
京都生まれ
幼少期は5歳からオルガン、その後ピアノ、クラシックギターとお稽古通い。
1976年 中川イサトギター教室に入門し、翌年最初の卒業生となる。
その後、当時はまだ珍しいフィンガースタイルのギター教室を愛知県で開始、関西の中川イサト教室、関東の岡崎倫典教室と共に合同合宿などを展開し、フィンガースタイル黎明期の普及に関与。
一方で楽器商社に永年従事し、カナダのLARRIVEEギター日本初上陸、タカミネギターの国内販売立ち上げのプロモーション展開などを担当。今や業界に定着した「エレアコ」という言葉を生み出した。
2022年オリジナルアルバム 「 ONCE AND FOR ALL 」リリース。
ONCE AND FOR ALL
発売日:2022年6月1日
販売価格:3,000円(税込)
1. Morning Haze
2. 春かな
3. C#Rag
4. 8月
5. Maria Elena
6. Orange Jam [duet with 岸部眞明]
7. Eの呟き
8. どこか
9. Katsura
10. 晴れ時々曇り
11. 窓の向こう
12. 見上げてごらん夜の星を
13. ゆめのまた夢
Bonus Track
14. Danny Boy
販売サイト プー横丁
Amazonで購入
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