オーストラリア、メルボルンに工房を構え、スティングのためにギターを製作するのなど各方面より評価の高いジャック・スピラ氏に、ギター製作を始めたきっかけやギターの特徴、スティングとの逸話など幅広くお話いただきました。
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ーギター製作を始めたきっかけはどのようなことでしょうか。
ジャック・スピラ(以下、ジャック):16才の時にギターを製作することに興味を持ち始めました。音楽全般が好きで、特にギターは好きだったので弾く練習もしたのですが、5分で飽きてしまうんです(笑)。
しかし、ワークショップでギターを作ることに関しては、あっという間に16時間たっていたりします。自分の個性として、ギターを演奏するよりも、製作する方が向いていると思いました。
ーどのようにギター製作を学んだのでしょうか。
ジャック:高校生の時にオーストラリアでギター製作を始めて、ロンドン大学でギター製作を学びました(London Collage of Furniture)。僕はもともとイギリス生まれで、7才の時にオーストラリアに移住しています。
オーストラリアの大学が学費が無料だったので1年くらい彫刻科に通っていましたが、やはりギター製作をしたいと思い、ロンドンに行きました。
ロンドンからオーストラリアに戻り、1991年から10年間はギター製作のトレーニングでしたね。メルボルン楽器の卸の倉庫があるのですが、そこで働いていました。中国から安いギターがたくさん入荷して、それをセットアップしました。1日に80本くらいですね。とてもいい経験でした。
この期間はまだプロフェッショナルとはいえなかったので、自分で作ったギターを1000ドル以下(数万円)くらいの安い価格で販売していました。
ー学校を卒業した後はギター工房などで勉強をしたわけではないのですね。
ジャック:1990年に卒業して、すぐに倉庫での仕事をしましたので、それ以外は独学ですね。
ー工房が今のようになったのはいつ頃からでしょうか。
ジャック:少しずつ今のスタイルが確立していったのですが、2000年頃から自分のギターをインターネットなどで販売するようになり、大体2003年頃からオーダーが入ってくるようになりました。この頃から機材なども揃ってきましたね。今の工房に移ったのは2012年です。
ーギターの特徴というのはどのようなところでしょうか。
ジャック:私がオーストラリアンスタイルのギター作りとして見てきたことは、サウンドボードの周囲を頑強にすることで、サイドは出来るだけ硬いものにしてライニングはマホガニーの合わせ木で作ります。これは普通とはやや異なり、クラシックギターの製作方法から来ています。
オーストラリアのギターはギターの外側をとても強く作り、サウンドボードの周囲をより薄く削ります。スピーカーの振動のような感じですね。マーティンなどのスタイルとは少し違っています。マーティンは周囲を硬くせず、サウンドボードと同様にフレキシブルにして、サウンドボードがたわむとサイドもたわみ、全体がたわむようになっています。僕のギターは、よりオーストラリアンスタイルに近くて、サイドバックは硬く作り、トップだけが動くようになっています。
他の特徴としては、私の好きなブレーシングパターンはブズーキから発展させたものです。私は長い間、アイリッシュブズーキの製作に時間を費やしてきました。オーストラリアではブズーキはビッグマーケットです。オーストラリアのフォークミュージックシーンでたくさんの民族楽器を作りましたね。アイリッシュプレイヤーに作ったアイリッシュブズーキなど、とてもたくさんテンションの強い楽器を作りました。サウンドボードをデザインするにあたっての問題は、強いテンションに耐えうる強度を作ることです。私はいくつかのブレイシングパターンをデザインしてきました。
ギターも同じように、私の好きなサウンドを持つブレイシングを探し始めましたが、それはとても難しいことです。
明るい音でない場合はちょっとバラついた感じになり、明るい音を求めると強い低音と強い高音を生み、中音域はそんなに強くならない。私のギターのサウンドは強い低音と高音を持つサウンドに仕上がっていると思います。
そのサウンドを変えることも何年もやってましたね。もしカスタマーがそのドンシャリなサウンドを好きじゃない場合は、もう少しマーティンスタイル寄りにサウンドを変えるということを時々やります。そうすると、少し柔らかいサウンドになるんです。
ブレイシングパターンはブズーキの構造に影響を受けています。ブズーキのブレイシングではブリッジの下部は、ブリッジに並行してまっすぐになっていて、とても丈夫で安定します。マーティンではブリッジ下部のブレイシングは、ブリッジから斜めに下に向かっています。
ブズーキと同じようにしてはサウンドボードが緩んで上がってしまいますが、僕の好きなサウンドはこんな感じです。ラリビーやラスキンもこんな感じですね。ただ、このままだとサウンドをクリアにしますが、少しクリアになり過ぎたり、バラついた感じにもなってしまいます。
ブズーキはとても強いテンションですが、ブリッジの後ろのブレイシングでブリッジの動きを止め、頑強に固定しています。私がブズーキに見出したのは、ギターには無い、アタックの強いブライトでとても良い音です。そして私はこのブレイシングをいろいろ試しました。水平と垂直の間でいろいろとブレイシングを動かし、試した経験の中で見つけました。
硬いサイドと水平のブレイシングは私の好きなサウンドだけどバラついた感じになることがあり、それを回避するために、ギターのバックのブレイシングをすごく低くして、ややフレキシブルにしなければならないことに気づきました。バックを柔らかくしすぎると大抵はトップを硬くして釣り合いを取るということになります。今の私のデザインは、こうして上手く作用しています。他の大多数のギターよりもっとフレキシブルにしてみることが、多くのトラブルを知ることにつながります。
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