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ギタリストインタビュー〜伊藤賢一
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ー最近はそれほどでもないですが、少し前は表板を薄くして簡単に音がでやすいギターが多かった気がします。

伊藤:僕の大屋ギターはけっこう厚めだったと思います。どのくらいなのか数値的にはわかりませんが・・・。クラシックギターでも伝統的な作り方からグレッグ・スモールマンが出てきた流れというのは特徴的だったですよね。サイドとバックをがっちり固めて薄い表面板を効果的に振動させるので、タッチした瞬間すごい音量で音が飛んでいく。確かにすごいですけど、自分にとってはちょっと違和感がありました。ハウザーだと自分が何かをこめないと音がでない。これがいいところです。均一に音を出したい訳ではないんですね。音量も音質も、自分ででこぼこをつけたい。これもギターの面白さですから。ギター側で既に均一さが備わっているのは親切ではありますが、自分には必要ないと感じます。

ーアコースティックギターだけを弾いているとその感覚はなかなかわかりにくいかもしれません。クラシックギターを一度弾くとそういったことがわかってきて、その後にアコースティックギターに戻ると、その感覚を生かせるのではないかと思います。

伊藤:最初はクラシックの表板のドライブのさせ方を鉄弦の方に転嫁させてましたが、今は逆に鉄弦の方で得たアルアイレのタッチ感をナイロン弦の方に転嫁したりしています。だんだんと行ったり来たりできるようになってきました(笑)。そうなってくると面白いですね。音の出し方は本当に奥が深いと思います。
スピーカーから出るダイナミクスとギターから出るダイナミクスはまったく異次元の世界です。それはギタリストは意識していたいですね。スピーカーを使った文化も勿論素晴らしい世界ですが、ギター本体の鳴りはやはり飛び抜けて美しいと思う。
現在の所謂「ソロギター」の音楽というのは、意外にクラシックの分野が入ってない。クラシックと言っても決して堅いものではなく、いろいろな素晴らしいアイデアに満ちています。「メロディと伴奏を一人で弾く」以上のことをクラシックギターの世界ではやっていたりします。バッハなら三声、四声の曲をギター1本で表現したり。自分はそこまでの力はないですが、面白いと思ったアイデアを取り入れて作曲していきたいと思っています。
アルバム「Tree of Life」の一曲目に収録した「ソリチュード」はそういったクラシックな感覚を意識した作り方をしていて、対位法的なアプローチで書いてみようと思って作った曲です。一見難しいですが、弾いてみると絶対面白いと思います。弾く度に発見があるタイプの曲です。「メロディと伴奏を一人で弾く」楽しさとはまた違った、こういった面白さも広めていきたいですね。鉄弦でバッハを弾くのも面白いと思います。
これから曲を作るギタリストにはクラシックもぜひ聴いてほしいですね。曲の構成や音色の使い分け方もきっと参考になります。ギタリスト以外の室内楽を聴くのもいいと思います。音と音との「間」の使い方など、ギターにはできないところもあり、またギターに置き換えて効果的なものもたくさんあります。いろいろな音楽を聴いてインプットするからこそアウトプットできるのだと思います。

ー押尾コータローさんでソロギターを知った世代ではあまり他のジャンルや古い音楽をあまりたどらない気もします。

伊藤:押尾コータローさんでソロギターを知り、影響を受けた人がどんどん増えて、そこからマイケル・ヘッジスにたどり着く人はいると思いますが、その先もいろいろたどって聴くかというとなかなかな無いかも知れませんね。押尾さんがこの世界の大きな窓口になって下さったと思うので、ぜひそこから先達の演奏にもどんどん接してほしい。
僕はこれからも表面板をドライブさせる、自分のタッチで良い音を出すということにこだわりたい。タッピング系をはじめ様々な奏法が定着し、逆にギター本来の楽しさを知らない愛好家が増えているのはもったいないと思います。地味な世界かもしれませんが、その分密度が濃く、飽きることがない。右手のタッチを磨く、左手のビブラート等の味付けを考える、音と音とがどう繋がるか運指を吟味する。小さい世界かもしれないけれども、そこにこだわれたらものすごく楽しいと思います。


自分の音楽世界を広めるために、是非ともいろいろな音楽に接してほしいです

ーレッスンをされているようですが、個人レッスンでしょうか。

伊藤:個人レッスンで自宅に来てもらいます。いろいろな方がいて、ギターを習いにくる事自体が楽しいという方もいるし、いろいろな音楽の話で終わってしまうこともあります(笑)。基本的に右手に関しては厳しくやります。

ーどのような内容なんでしょうか。

伊藤:いろいろなパターンがあります。押尾さんの曲が弾きたい、南澤さんのアレンジを弾きたいという方や、最初からクラシックを習いたいという方もいます。基礎練習のやり方はクラシックを踏襲しています。できれば足台を使ってもらい、足台の利点も説明します。足台に左足を乗せるフォームの利点はいろいろありますが、やはり左腕の自由度が増す事が大きいです。ギター演奏においては左腕の運動量ってかなりあるんですよね。右足にギターをのせるアコースティックギター主流のフォームだと左の肘が脇腹に接触している事が多くなり、動きが制限される。でもフォームに関しては個人の感覚も重要ですので、たまにどうしても使いたくない!という人もいます(笑)。でも左腕がつっかえて演奏に困っているとしたら、嫌でも足台に切り替えてもらいます。
生徒によく言われるのですが、実際に会うまでの僕のイメージは「こわい人」らしいです。全くそんなことはないです(笑)。実際に会うと「本当は面白い人なんですね」と皆さん言ってくれますが。

ー今後の活動予定はどのようなものがありますか。

伊藤:11月後半は小川倫生さんとツアーがあります。22日は大阪の5th-Street、23日は愛知のDenpo-G Studio、24日は製作家大屋建さんの工房です。小川さんとは音楽性は全然違いますが貴重な同年代ギタリスト同士刺激し合ってます。
今後はライブができるところをどんどん広げていきたいですね。演奏できる場所は増えてきましたが、四国や中国地方はまだまだです。北陸、東北も行きたいし、何かきっかけがあればいろいろなところにどんどん出かけて行きたいと思います。
あとは生でできる会場を積極的に探していきたいです。23日のDenpo-G Studioや、12月8日にソロライブを行う浜名外科医院内DENホールは完全に生で演奏しています。今年6月のDenpo-G Studioでは、ライン出しの小川さんが前半で、完全生音の僕が後半でやってみたのですが、お客様の反応がとても良かったんですよね。最初にラインの音量に慣れた耳でも、後半に生音演奏が出てくると違うモードの耳で聴こうとしてくれます。このモードのスイッチが切り替わるのがステージからよくわかりました。音量の大小が大事なのではなく、演奏者各自が音作りを含めてどういう世界を構築したいのか、それをお客様と共有できればいいのだと気付かされました。興味深い、貴重な体験でしたね。
僕自身、大きな会場で人をたくさん集めたいという事は全く考えておらず、小さなところで親密に、できれば生音で演奏できるライブを増やしたいです。「ギター本来の音が聴きたいから生でやって欲しい」という要望が普通に出てくるように今後なっていくといいですね。今の時代とは逆行するような感じですが、こういうギタリストが一人くらいいてもいいかなと思っています。ずっと前から思っていることですが、「あそこにいけばいいギター音楽が聴けるよ」という存在に一歩でも近づきたいです。 アルバムは5枚目が今年出たばかりですが、2年に1枚は出していきたいです。あといろいろなコンサートを積極的に見に行きたいと思っています。必ず刺激を受けますからね。クラシック、ポピュラー問わず、生演奏を聴きたいです。リスナーでもあり、表現者でもありたいと思っています。

ー最後にギターを弾いている方にメッセージをお願いします。

伊藤:ギターの音は様々な楽器の中で最高だと思っています。音源に直に触れる、ギターならではの楽しさを深めていけたら、プロ・アマ問わずきっと一生の友になるはず。そしていろんな音楽を聴いて、ギターの特長や欠点が見えてくると、そこからどんどん世界が広がると思います。ギターの音楽を愛しつつ、自分の音楽世界を広めるために、是非ともいろいろな音楽に接してほしいです。
そして、皆さんも僕と一緒に表面板を振動させましょう(笑)。

2012年10月22日東京にて
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得
2001年1stアルバム「String Man」発表
2002年2ndアルバム「Slow」発表
2007年3rdアルバム「海流」発表
2010年4thアルバム「かざぐるま」発表
2012年5thアルバム「Tree of Life」発表
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」発表
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
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