ーアルバム全体としてどういったことを伝えたいですか?
矢後:僕の中にはストーリーがあるのですが、これが僕という訳ではなく、聴いている人の頭の中で主人公を設定して聴いてほしいです。
僕の中でのストーリーというのはお話ししていません。
もともと物語のようなものを作りたくなったのは、僕の曲を聴いた方が、「矢後さんの曲は映画の一場面のような曲ですね」「風景がすごく浮かびます」「ドラマを感じます」と言っていただけることが、ここ数年多くなってきました。
それは最近僕が曲を作る時に意識していることでもあります。
ドラマ性というのは大事にしていたので、それをつなげて映画や、本を一冊読むようなアルバムを作れたらおもしろいな、というのが出発点でした。
ージャケットや内側に絵がいくつもあります。これは楽曲をイメージした絵なのでしょうか。
矢後:今回ペイントアーティストのいくらまりえさんにジャケットをお願いしました。
アーティストとして有名な方で、様々な活動をしています。
羽田空港にでっかくお絵描きしたり、広い空間にアートしたり、先日は体育館全体に大きな筆で絵を描いて話題になりました。
ライブペインティングといって、音楽に合わせてキャンバスにアートしたりもします。これは日本ではまだ少ないですが、海外では盛んなようです。
こういった生きたアートをされる方で、数年前から一緒にライブをするようになり、僕がギターを演奏して、いくらまりえさんがペインティングします。
面白いのが、一つのキャンバスに僕が1曲弾いて、次の曲を弾くと絵を上書きしていきます。最初に葉っぱを描いていたら次の曲ではそれが指になっているなど、上書きされることで絵が変化していきます。
耳にも楽しくて視覚的にも楽しく、スリリングです。次は何がくるのかなと。これを即興でやってます。
今回ジャケットをいくらまりえさんにお願いしようと思ったのは、物語なのでライブペイントしてほしいとお願いしました。
13曲お渡しして、即興で13回上書きするんです。
ジャケットの背表紙は1曲目の「Once upon a time」です。これが13曲終わると、ジャケットの絵になります。
1曲終わったごとに記録した写真が、ジャケット内にある絵です。
ー絵を見ると別々の作品に見えます。これが全て上書きされているんですね。
矢後:そうなんです。上書きされたそれぞれの絵でカレンダーにもしました。いくらまりえさんからはジャケットをどの絵にしてもいいですよ、と言われてましたが、やはり最後の絵が説得力があったのでジャケットとしました。
いくらまりえさんにはこういう曲です、と伝えて曲を聴いていただき、それをイメージして描いてもらっています。
1曲ごとに上書きをしていくので、地続きに一つのストーリーになってます。
今回は曲だけでなく、視覚的にもうったえているのでアルバムを手に持ってほしいですね。
今はCDをリリースするというのがギリギリの時代だと思います。もしかしたら次はCDで出さないかもしれません。
そんな中でもCDとして持つことにしっかりと価値を持たせたり、おしゃれにもしたくて、今回の作品はかなり実現できたと思います。
部屋に立てかけて飾ってもおしゃれだと思います。
2,3年ずっと考えていた構想がようやく実現できたことに満足しています。
思い描いていたものができましたね。
ーアルバムではどのような楽器を使用しましたか。
矢後:Greenfieldで8曲収録してます。その他ミニギターのBaby Dolphin、M-factory、Ogino GuitarのOMのファンフレット、Gibson LG-1を使用しました。
Greenfieldはすごく特徴的な音が出ます。僕の演奏と合わせると独特な音が出ると気づき、これを最大限使ったものを作ってみたいと思い、今回多くの曲で使用しました。
13曲と曲数は多いのですが、50分は超えてないくらいで、これは時間を意識しました。
歌のない音楽を僕がリスナーとして聴くのが長時間できなくなって来たんです。昔より短くなっているし、とばすこともあります。
今回そうさせないようにしたかったんですね。全部聴いても飽きない、13曲がいつの間にか終わる、もう一周聴きたくなる、という作品にしたかったんです。
物語なのでとばされると成立しません(笑)。
13曲で一つの物語にしたいと思った時に、従来のソロギターアルバムのようにいろいろな楽器を使い、いろいろな音になることを避けたかったんです。
かといって、同じギターでずっと同じ音というのも今回のコンセプトに合わないのでこれも避けたかったんです。
ある程度の一貫性を曲たちに持たせつつ、その中でバリエーションもあって楽しめる、ある種の矛盾を解消したものを作りたかったんですね。
そのためにいろいろな工夫をしてみましたが、ギターのサウンドも大きなポイントの一つで、Greenfieldの特徴的なサウンドを積極的に使うことで、一貫性を持たせることができました。 |