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ギタリストインタビュー〜土門秀明
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ーイギリスでどのように活動しようとかは考えていたのでしょうか。

土門:最初に一人で短期間ロンドンに行って、どのようにすればよいか考えました。日本人では、日本の音楽を日本の楽器で演奏する人たちが仕事をしているようでした。尺八や和太鼓、民謡などですね。そこで後輩の演歌歌手がいるのですが、彼に話をしたらちょうど仕事をやめたところだということで、一緒に演歌ロックをやろうとなりました。まずは二人で着物を着て、演歌を英語で歌ったら面白いと思い、「天晴(あっぱれ)」という名前で活動しました。

ーその時はどのような活動だったのでしょうか。

土門:日本のフェスティバルが結構あるんです。日本人のコミュニティもあるので、そこで日本語でやったり、広場で演奏したりしました。アルバムも1枚作りましたね。
この活動をしているうちに、ロンドンの地下鉄で公式なバスキングが始まるという情報があったんです。それで二人ともオーディションを受けることになりました。私はビートルズの「イエスタデイ」を「ソロギターのしらべ」を見て覚えて、オーディションに向かいました。僕らは別々に申し込みをしていたのですが、英語がうまく話せないので、結局一緒に「与作」をやりました(笑)。おそらく、僕がビートルズをやるよりは日本の曲をやった方がよかったみたいなんです。「与作」は知らないでしょうけどね(笑)。それで、2週間後くらいに合格通知が来ました。

ー二人でバスキングを始めたのでしょうか。

土門:バスキングはあくまで仕事なんですね。二人だとスケジュールを合わせるのも難しいし、収入も分けなければいけない。二人でやっても一人でやっても収入はほとんど変わらないんです。広場では派手な大道芸もあって人だかりになりますが、地下鉄では基本的に音楽で人は足を止めません。聴いているのは3秒から10秒くらいですね。ロンドンの地下鉄のバスカーはほとんどが一人で演奏しています。

ーどのようにお金を得るのでしょう。

土門:2週間前に電話で予約します。先着順でチケット取りと同じような感じですね。2時間枠で、各駅2,3箇所小さな演奏スペースがあり、ギターケースを前に置いて演奏をします。そのケースにお金を入れてもらいます。

ーあまり立ち止まらないとお金を入れてくれない気もします。

土門:ここが日本人と感覚が違っていて、海外では隣人を愛せよ、という気持ちが強いんです。それとミュージシャンに対する尊敬の念が強いです。なので、道ばたで演奏をしていれば子供でも老人でもお金を入れてくれるんです。美しい音楽を演奏してくれてありがとう、という気持ちで。これが子供の頃からのしつけなんですかね。
日本人の感覚でこれに一番近いのはお賽銭かもしれません。お賽銭はお金を入れて拝みます。これで自分に何かいいことがあればいいなという感じです。バスキングではチューニングしてるだけでもお金が入る時もあるし、下手でも一生懸命であればお金が入ります。ここで10年以上やりましたが、お金がゼロということはありませんでした。

ー10年くらいバスキングをしていたということですが、この間バスキング以外の活動もあったのでしょうか。

土門:バスキングではいろいろな人と知り合います。駅で知り合ったスペインの女性とレコーディングやライブをしましたね。でも僕はバスキングの方が好きで、自分のペースでできるしプレッシャーも無いので、バスキングは天職だと思いましたね。

曲も自由だし立ち止まらないので、同じ曲を繰り返し弾いていてもいいんです。「ティアーズ・イン・ヘブン」「イエスタデイ」「ボヘミアン・ラプソディー」をずっと繰り返したりします。それでは飽きるだろうと言われるのですが、これでお金が入るなら飽きません(笑)。バスキングというのは仕事なんですね。他の仕事だって同じことの繰り返しというのが多いじゃないですか。

それでも新しい曲を練習したり、オリジナルもやってみたりと自由にやってました。永住権が取れたらずっとやっていたいと思ってましたし、最期はバスキングの途中で死んでも本望とさえ思いましたよ(笑)。

ーバスキングはどのくらいのペースでされていたのでしょうか。

土門:やれる場所のよし悪しにもよります。先着順で一週間分のスケジュールが決まります。いい場所が取れればいいのですが、1000人くらい登録してるので電話が全くつながらないこともあります。そういう時はレコーディングをしたり、人気が無く空いている場所で動画を撮ったりしていました。人気のある場所では動画を撮る余裕がありません。カメラが盗られないように気を使うし、知らない曲ではお金も入らないし。儲かる場所ではひたすら演奏を続け、儲からない場所では撮影をするという感じですかね。バスキング中に録音し、「Live in Tube」というアルバムも作りましたよ。

ーバスキングでは変わったことなどありましたか。

土門:たくさんありましたよ。なので本を出したんです。
(地下鉄のギタリスト:Kindle版 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00C51LZCE/blogdomonuk-22/ref=nosim/)
この頃はロンドン地下鉄同時爆破テロもあったし、お金を盗まれることもあったし、オレンジジュースをぶっかけられた時もありました。この本にいろいろと書いてあります。

ー2012年に帰国されています。ロンドンでのバスキングをとても気に入っていたようですが、どういった経緯で帰国したのでしょうか。

土門:いろいろと流れがありました。体調が悪かったり、ビザの延長もしにくくなりましたね。最後は観光ビザで行ったり来たりしましたが、空港で止められてチェックされました。ここで入れたら永住権を申請しようと思ってたんです。破棄しようと思っていた帰りのチケットを持っていたのですが、帰りのチケットの日までのビザしか下りませんでした。

できることなら永住権を取りたかったのですが、体調もかなり悪くなっていたので帰国を決意しました。それで日本に帰ったら鬱病になってしまったんです。1年くらい廃人のようでしたね。長らく布団からも出れず、ギターも弾けませんでした。

ーそんな状況から、どのようにまたギターを弾くことになったのしょうか。

土門:子供の頃から面倒を見てくれた93才の叔母が入院していて、3ヶ月くらい意識が無い状態でした。僕は鬱病でお見舞いにもいけません。それでもその病院の近くに行く用事ができたんです。その叔母は僕がロンドンに行ってる時から僕に会いたい、ギターを聴きたいと言ってたらしいんです。それで、僕も少し歩けるようになったので行ってみようと思いました。

病院ではホールや外でギターを弾くのは多分大丈夫なんですが、病室は許可がおりにくいんです。それでギターを隠して持ち込みました。そして静かに「Amazing Grace」を弾きました。この時、病室にいた親戚の方が動画を撮っていてくれました。
(Amazing Grace -in Hospital- https://www.youtube.com/watch?v=q4DrjRQ40I4)

その時、叔母が少しだけ動いたんですね。その日はそれで帰ったのですが、翌朝、叔母のお姉さんから連絡があり、叔母が朝亡くなったと聞きました。約4ヶ月頑張ってましたが、僕のギターを聴いた翌日に亡くなったんです。おそらく秀明のギターも聴けたし、もう思い残すことはないと旅立たれたのではないかと言われました。

この時から、僕の鬱病も治ってきます。少しずつギターの練習も始めました。そんな時、東京ハンドクラフトギターフェスティバルでの演奏依頼が来ました。しかし、まだ人前で弾ける状態ではなかったので断ったんです。イベントは5月だったのですが、3月になってもまだ出演者が決まらないから出て欲しいと再度依頼がありました。一度断ったのにまた依頼が来たというのだから、これも運命かも、神様がやれと言っているのではないかと思い引き受けました。それから必死に練習しましたね。当日は30~40分くらいの演奏だったと思います。これが復帰ライブとなり、なんとか弾けて、ここからまた演奏活動をするようになりました。
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土門秀明 http://blog.domon.co.uk

1964年山形県酒田市生まれ。
1986年から1990年バブルガムブラザースにギタリストとして参加。
2002年渡英。
2003年ロンドン地下鉄のバスキングライセンスを取得。
2006年「地下鉄のギタリスト Busking in London」を出版。
2011年アルバム「From The Underground」をリリース。
2012年ロンドン地下鉄構内で録音されたアルバム「Live in Tube」をリリース。
2012年3月帰国。
2013年TOKYOハンドクラフトギターフェスにゲスト出演。
2014年スペイン人シンガーSiraとのフルアルバム「DESTINE」をプロデュース。
2014年自然音とのコラボレーションアルバム「Busking in Sakata」をリリース。
2015年ビートルズソロギタートリビュートアルバム「While Solo Guitar Beatly Weeps」をプロデュース。
2016年庄内の水音と癒しの禅的ソロギターのコラボレーション、總光寺オリジナルCD「慕古-moko-」をリリース 。
Live in Tube
Live in Tube
NEW VINTAGE RECORDS (2012.1.25)
2,160円

1. Here,There and Everywhere
2. Too Much Love Will Kill You
3. Crane Girl(オリジナル)
4. Desperado
5. Heal The World
6. Your Song
7. Mogami River(オリジナル)
8. I’ve Never Been to Me
9. We Are All Alone
10. Adios-Rest in peace-(オリジナル)
11. Over The Rainbow

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From The Underground
From The Underground
1. Adios -Rest in Peace-(Mr.K氏追悼曲)
2. Crane Giri(鶴の恩返しイメージソング)
3. Walk To The Moon -Featuring Sira Garcias-(ロンドン地下鉄で出会ったスペイン人女性歌手との共作)
4. Mogami River(最上川イメージソング)
5. From The Underground(ロンドン地下鉄生録アナウンス入り)
6. God Save The Queen & 君が代(ライブバージョン)
7. 3fingers & 3 strings(3本の指と3本の弦のみで演奏)
8. Buskers(日本語ボーカルバージョン)
9. Never Forget(うつし絵「Mio」とのコラボレーション曲)
10. I Vow To Thee My Country ”ジュピター”(サウスケンジントン駅ピッチ1にてライブ録音)
ボーナストラック
11. Charing Cross(エレクトロニクオーケストラバージョン)

購入はdomon1964@hotmail.comまでお問い合わせください。
2,160円

While Solo Guitar Beatly Weeps
While Solo Guitar Beatly Weeps
Solo Guitar Records
2015/4/10発売
2,160円

1. I Saw Her Standing There (益田洋)
2. In My Life (南澤大介)
3. Octopus's Garden (浜田隆史)
4. While My Guitar Gently Weeps (yuta tanaka)
5. Help (城直樹)
6. Day Tripper (谷本光)
7. Strawberry Fields Forever (土門秀明)
8. WITHIN YOU WITHOUT YOU (告井延隆)
9. A Day In The Life (AKI)
10. Here, There and Everywhere (垂石雅俊)

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