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対談〜垂石雅俊&南澤大介
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垂石:そんな情報が少なかった時代に立ち上げていたギター同好会“ギタリスツ”はギター・サークルに所属していた大学時代のスタートですか?

南澤:まずウィンダム・ヒル・レーベルの情報が欲しくてファン・クラブに入りました。日本での発売元のレコード会社に出入りするようになり、大学には行かなくなり(笑)。そのウィンダム・ヒルのファン・クラブの中で、ギターに特化した部会として“ギタリスツ”を作りました。みんな情報に飢えていたので、機関誌を作って、石川鷹彦さんとか、プロ・ギタリストの方にも勝手に送っちゃったりしていましたね。

垂石:そのアルファ・レコードの頃に携わったギタリストさんはどんな方々ですか?

南澤:来日してお会いしたのはウィンダム・ヒル・レーベルの創始者ウィリアム・アッカーマンとマイケル・ヘッジス。タック&パティはライヴを見に行かせてもらいました。あとは“Interiors”のギタリスト野中英紀さん、そして日向大介さんの家に遊びに行ったり。その日向さんの誘いで、お兄さんである日向敏文さんの“愛という名のもとに”のレコーディングに参加させて頂きました。バイトした、働いたって記憶はごっそり抜けていますね(笑)。

垂石:タック&パティに関しては、僕も当時、横浜駅にあったHMVレコードのインストア・ライブに行きました!変なギター小僧が目の前ですごい頷きながら聴いているものだから、気になったのでしょうかね、タックが終了後に声掛けてくれて。緊張して何を話したかは全く覚えていないのですが、穏やかな感じの人でした。プレイはあんなに激しいのに。(笑)

南澤:タックもそうだったかもしれない。ヘッジスもいつも優しかった印象で、穏やかな感じの人。そういえば、歳はまだ若いですけど“ペッテリ・サリオラ”は、とてもヘッジスの感触に似ていますよね。顔も似ているけど。

垂石:顔も?人柄だけではなく?

南澤:顔も似ていますよ。穏やかさというか、すごい感触が似ていると思う。

ペッテリ・サリオラ
ペッテリ・サリオラ
1984年フィンランド生まれ。スラム奏法と呼ばれる演奏方法を編み出し、押尾コータローなど日本のアコースティック・ギタリストも影響を受けてこの奏法を使用しており、特に押尾コータローはペッテリ・サリオラを絶賛し、ライブでも共演している。楽曲はイ ンストゥルメンタルのみならず、自身でヴォーカルを取る歌も多く、作詞作曲ともに手がける。 (※アルバム“究明”ではライナーノーツの楽曲解説を垂石氏が担当している

曲のこと、“寂寥感”のこと

垂石:マイケル・ヘッジスの好きな楽曲3つを頂きながら、南澤さんの音楽の本質に迫ってみたいと思います。

南澤:“Aerial Boundaries”は、好きかどうかも、もはや分からないぐらい聴いてますね(笑)。アルバム“Oracle”の最後の2曲、“Sofa No.1”と“WhenI Was 4”を1セットでよく聴いて、でも本当に一番好きな曲は“Running Blind”。歌モノですね。

垂石:学生時代から楽譜を書いてたら、もう体の一部になっていますよね。

南澤:私は音楽で最も大切なのは「メロディ」だと思っていますが、“Aerial Boundaries“を改めて聴くと「これはメロディアスなのか…?」って悩みますね(笑)。“Running Blind”は、自分の作曲のテーマでもある“寂寥感”が好き。他の2曲も鎮魂歌のイメージです。

垂石:哀愁とはちょっと違いますよね。“寂寥感”というキーワードが出た所で、作曲に対するインスピレーションの話などをお願いします。仕事で曲を作らせてもらうようなことが度々増えてきたのはうれしいのですが、僕も学生の頃からギター・アレンジが大好きで、よく“ファイナルファンタジー”もソロ・ギター・アレンジをしていました。南澤さんの創作活動のポイントや、原点を教えてください。

南澤:自分にとっては、そもそもギターがメイン楽器というわけではないのです。作曲や音楽活動、全部ひっくるめると、実は“ピアノ”と“寂寥感”がポイントかな。自分のイメージする“寂寥感”をギターで表現するのは、楽器の構造上とても難しい。音も伸ばし続けられないし、クローズドの和声も難しい。ちなみに自分の根っこである“寂寥感”は、田宮二郎さん版の“白い巨塔”メイン・テーマや、“機動戦士ガンダム”BGMなど、渡辺岳夫さんの音楽から来ています。

垂石:“白い巨塔”と聞くと、唐沢寿明さんと江口洋介さんが出てくる(笑)。
自分もガンダムは大好きです。ストーリーも場面によっては人によって印象が違う随分違う捉え方ができてしまう。爽やかにも見えたり、青春ドラマのようにも見えたり、相手の人間の欲望が渦巻くようなシーンもあったりするから、戦闘シーンは印象的ですけど、劇中の寂寥感…。もう一度よく確認しておきます(笑)。

南澤:コード進行で言うと“Ⅳ-Ⅲ-Ⅳ-ⅢでⅠに行かない”とか、“ⅠもⅤもない”とか。この辺がすごく自分ではツボでした。寂寥感では“1999年の夏休み”という映画の、ピアニストの中村由利子さんが手がけたサウンドト ラックも、自分の作曲の原点です。

垂石:中村さんのお名前は、僕は“ジブリ美術館”で上映されている宮崎駿監督の短編映画の音楽を担当されて初めて意識しました。なるほど寂寥感を感じます(笑)。「ノスタルジック」とはちょっとまた違いますね。

南澤:少しロマンチシズム寄りで、ちょっと甘い感じ。重なる部分は多いと思いますけどね。作曲という意味では原点で。広い意味ではエリック・サティの音楽も入ってきますね。ともあれ、当時、好きな楽曲を聴いていたら「あれ、なんか手触りが同じだな」と思って。結局「やりたいのはピアノなんだなぁ」と。こんなにギターを弾く前はピアノで曲を作っていました。

垂石:旋律的にもやっぱりピアノの音を求めていた。そこから作曲のキャリアのスタートですか。

南澤:ギターでは出しにくい“音の跳躍”も容易なので、自由度が高いですしね。作家・綾辻行人さんの小説“暗闇の囁き” が舞台化された際に音楽を依頼されて。それが’94年のことです。そのご縁で、後に綾辻さんからゲーム音楽の仕事を頂いて、ある意味これが人生を変えました。狂ったように作っていましたね。


垂石:南澤さん27歳、青春真っ盛り!その狂ったように作っていた時も含めて、インスピレーションの根源はどんなものなのですか?

南澤:自分のアルバムを作るとか、自由に作曲する事もあまりなくて。劇伴などのサントラで言えば、主となる物語であるとか、CM曲だったらCMの元素材があって、そこに音楽を付けるっていう仕事の仕方なので、作曲というよりは選曲です。それぞれのテーマに対してどういう曲が合うかをまず考える。それが悲しいメロディなのか、歌モノなのか、激しいドラムのリズムなのか。決まった要素から埋めていくような感じです。

垂石:ジグソーパズルの様に、“モヤッ”とした像がある。

南澤:先にどういうものが必要とされているのかを把握する必要はあります。例えば自作品の“雨の停留所”だと、まずギターの音をイメージする。
次はリズム。8つのアルペジオだとちょっと遅いし、ストロークだと激し過ぎる。じゃあ、3フィンガー系のアルペジオのリズムに乗せてメロディを配置するなど、ですね。

垂石:曲の演奏技法だったり、聴いてきた音楽だったり、そういったところで“チャンネル分け”が成されていて、そこからイメージを作り出すような。「これと、これと、これを足すと、こうなる」っていう、豊富なチャンネルから見つけてくるわけですね。

南澤:最初は選曲だからそうですね。あくまでサントラの話ですけども、当然、特定の曲に似すぎたり、パクリにならないように気を付けます。メロディが要らないとこでもメロディを入れて、それが自分のサインになれば、っていうような書き方はしますね。

垂石:南澤さんのソロ・ギター作品でよく聴く曲も、やっぱり元となるイメージはピアノが結構多いのですね。

南澤:そうですね。今ライブなどで弾いている“雨の停留所”とか“故郷への長い道”は初めからギターで作りましたけど、“月”や“星を継ぐもの”とかは、大概ギターではないですね。クライアントからは「こんなテイストの曲を」って依頼が多々あるじゃないですか、そこに焦点を当てて外枠から作る感じ。「好きに作っていいよ」って言われたら困りません?

垂石:僕は曲の最小単位のモチーフ、例えば3つの音を膨らませたりする事が好きで。3つ音がポンポンポンって閃いちゃったら、もう仕事を忘れて作りたくなっちゃうかな。

南澤:そのあとは編曲力ですもんね。ヘッジスも「Baby Toes」を解説している動画で、そう言っていましたね。

垂石:ヘッジス先生…。及びがたい…。やはりギターで弾きたい、ギターで何か表現したい。ギターだけの表現にどうしてもこだわりたくなっちゃうっていうのが僕の悪い癖(笑)。南澤さんを始め、作曲家さんの楽器を選ばないっていう、自由度は憧れです。

南澤:僕はたまたまギターじゃなくてピアノでしたけど、でも普段イベントなどで自作品を聴いてもらうには、ギターに置き換えるしか他に道がないだけです(笑)。
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プロフィール

垂石雅俊 http://masatoshi-taruishi.com

1977年2月18日生まれ。福島県出身。

2012年にキングレコードにてメジャーデビュー。ギタリスト・プロデューサー・アレンジャー・コンポーザー・CEOの顔を持つ。多数のレコードや著作のリリースをはじめ、「モーリス・フィンガーピッキング・ディ」の審査員や、自身がプロデュースするイベント「ギターカーニヴァル」のオーガナイザーなど、ギターにこだわった音世界を拡散中。

キングレコードより「カフェ日和 ~癒しのギターでくつろぎのひととき~」など、多数。著書に「弾きたい曲からはじめる!私のクラシックギターシリーズ」「ソロ・ギター練習帳」(リットーミュージック社刊)など。
そのたおやかなギターサウンドはTV、ラジオなど、多くの主要メディアでも用いられている。日本スイーツ協会認定のスイーツ・コンシュルジュでもある。

音楽教室ギターレ&エアストはコチラ http://www.saimusic.jp/


南澤大介 http://www.bsvmusic.com

1966年12月3日生まれ。
作・編曲家として、プラネタリウムや演劇、TVなどのサウンドトラック制作を中心に活動中。
近作に、NHK教育TV「しらべてゴー!」(作曲)、フジTV「ブザービート」(ギター演奏)など。
高校時代にギターの弾き語りをはじめ、のちソロ・ギター・スタイルの音楽に傾倒。
マイケル・ヘッジス、ウィリアム・アッカーマンら、ウィンダム・ヒル・レーベルのギタリストに多大な影響を受ける。
1992年、TVドラマ「愛という名のもとに」サウンドトラック(作曲:日向敏文)への参加が、プロ・ギタリストとしてのデビュー。
ギター1本でロックやポップスの名曲を演奏したCD付き楽譜集「ソロ・ギターのしらべ」シリーズが累計40万部を突破(2015年現在)し、楽譜としては異例のベストセラーを続けている。

TAB譜付スコア
「ソロ・ギター/カフェ日和」〜癒しのギターでくつろぎのひととき〜
TAB譜付スコア 
「ソロ・ギター/カフェ日和」〜癒しのギターでくつろぎのひととき〜
12月発売予定
価格:2,160円 楽譜: 112ページ
出版社:ドリームミュージックファクトリー

曲目
・虹の彼方に
・タイム・アフター・タイム
・ティアーズ・イン・ヘヴン
・マイ・フェイヴァリット・シングス
・追憶
・ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
・フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
・イエスタデイ・ワンス・モア
・アメイジング・グレイス
・サンバースト
・僕の歌は君の歌 (ユア・ソング)
・カヴァティーナ
・スペイン
・星に願いを
・ポートレイト

「アメイジング・グレイス」PDFファイル

http://www.aco-world.com/acoworld/vol91/AmazingGrace.pdf

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垂石雅俊氏の通販サイトから予約の際はサイン本として販売予定
https://tarugitarre.thebase.in/
確定いたしましたら情報を更新いたします。

CD「カフェ日和」〜癒しのギターでくつろぎのひととき〜
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価格:1851円
発売日:2012/11/7 レーベル: キングレコード

1. 虹の彼方に(オーヴァー・ザ・レインボー)
2. タイム・アフター・タイム
3. ティアーズ・イン・ヘヴン
4. マイ・フェイヴァリット・シングス
5. 追憶
6. ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
7. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
8. 宇宙飛行士
9. イエスタデイ・ワンス・モア
10. アメイジング・グレイス
11. サンバースト
12. タイム・トゥ・セイ・グッバイ
13. やさしく歌って
14. 僕の歌は君の歌(ユア・ソング)
15. カヴァティーナ
16. スペイン
17. 星に願いを

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