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ギタリストインタビュー〜住出勝則
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■表面的なテクニックは必要ですが、アートというのはそういうところだけではありません


ー全て独学でソロギターを学んだようですが、クリニックなどでそれらを教えることなどは考えていますか。

住出:僕はクリニックなど、教えることは苦手なんです。そんな時間があったら、未だに自分で勉強したいと思うんですよね。
練習に関しては、よく「人の2倍やれ」と言われますが、それでは甘いです。10倍はやれとしか自分では言えません。自分もそうやってきましたから。アマチュアであればそこまでやる必要はないですが、僕らはそれでご飯食べています。アーティストとして、芸術というふわっとしたものを形にしてお金をいただいています。そうなると、厳しさも増していきます。ギターは上手く弾けて当然なんです、プロなんですから。そこから先、「あなたは音楽的に誰なんですか」と。そこが分かれ目になるんです。みんな、「誰々みたい」というプロセスはあります。最近の若い人の演奏を見ても、僕らが若い頃よりはるかにうまいですが、圧倒的に個性が足りない。何をやりたいのかわからない。せっかく、あなたという人は世界で一人しかいないのに・・・例えば、トミー・エマニュエルのようになりたいのは理解できても、すでにトミーがおるやんかと。これは意見が分かれると思いますが、ものすごくもったいないことだと思うんですよね。自分だけの音楽、つまりハンコのようなものを、人の心の中に刻み込みたいじゃないですか。たとえトミーの曲がうまく弾けたとしても、それはあなたが凄いのではなく、トミーが凄いんですよと。そういうのもアリなんでしょうが、せっかくソロギターという真っ裸のジャンルで勝負しているのであれば、あなたは誰だと聞かれた時に、能書きではなくギターを弾いたら分かるくらいになって欲しいというのが、自戒をこめて思うことです。今の若い人は技術的には圧倒的にうまいのですが、やっぱり何か足らない。

住出勝則表現力が足らないというか、まだ手数とか技術の方に意識がいってますよね。
ジョー・パスの後期ですが、手数がものすごく減るんです。どんな楽器の人でもそうですね。言葉でもそうです。段々と言葉数が減り、間を大切にするようになります。ギターであれば、それがビブラートなのかもしれないし、リヴァーブの力を借りた空間を漂うような表現かもしれない。表面的なテクニックは必要ですが、アートというのはそういうところだけではありません。心と心が空気中でつながっていくかどうかということだと、最近よく思います。もちろん経験の浅い深いによって段階があるんですが、今はこういう考え方になってきました。

ークリニックをやるのであれば、自分で勉強したいということですが、まだ練習量は多いのでしょうか。

住出:今はあと2年で還暦になる58才ですので、練習をしないと不安なんです。忘れるのが速くて、10年前とは違いますね。同い年くらいのギタリストとこのことについて話してみたいです。トミー・エマニュエルは僕より一つ上、ローレンス・ジュバーは3才年上ですから、おそらく同じような悩みがあると思いますよ。僕と同じくらいの年代の人は本番ギリギリまで練習してますからね。本番前に弦を替えても弦がへたってますから。本番5秒前まで弾いてます(笑)。昔は練習というものがもっと違うところにありました。
技術を習得して、ソロギターの作り方を学ぶということを主に練習していましたが、今はライブが決まったら早めにメニューを決めて、きちんと弾きこんでいます。それでも人前に出ると、今でもレベルは下がりますしね。これは永遠の課題です。

ーこれだけステージを重ねても緊張はありますか。

住出:何回か続けていくと、慣れてしまっていい方向にいかないものです。日程の間隔が空きすぎると体調は戻りますが、ステージ感が狂います。理想的なペースで空けられればいいのでしょうが、そういう訳にもいきません。
自分で今日は弾けたな、と思うのは年に数回くらいです。それも勘違いかもしれないですけどね。自分で評価してはいけないでしょうし、お客様がよかったと思えればいいのですが。だから頑張るのかもしれないですね。
いろいろなことを試しましたよ。そんなに緊張するなら「いい加減にやってみたら」、と言われて、手を抜くのではないですが、いい加減な感じでやってもうまくいかない(笑)。めちゃめちゃ練習してもうまくいかない。適度にやってうまくいくこともあれば、うまくいかない時ある。精神面での処方箋はないですね。練習をして「よし、いける」というところまでいけば、レベルが下がっても80より下がらないとかは経験でわかりますが、メンタル的なことは難しいです。

スポーツでもそうでしょうが、小さな成功を積み重ねて自信につながるじゃないですか。100を目指していてもなかなか100にはいかない。30点や50点だったり、ある時90点までいっても次は70点だったりする。練習をさぼっていると、このレベルの落ち度が違います。これは誰に対してというよりも自分に対してですね。自分が納得いかないじゃないですか。しっかり準備してやって弾けなかった時、お客様からは素晴らしいと言っていただけても(うれしいですが)、やっぱり自分に厳しくいかないといけない。
おそらくソロギターの人はみんな完璧症じゃないですかね。でなければソロギターなんかやってないでしょう(笑)。話は変わりますが、だから僕は電波時計が好きなんです。一秒単位で時間が合うのを見るとゾクゾクします! はい、完璧な完璧性です!

ソロギターは100%自分のコントロール下にある訳ですから、よく弾くのも悪く弾くのもほぼ自分の責任です。こんなやりがいのある仕事はないですね。良くも悪くもお客様をコントロールして、コントロールもされる。全て自分にかかってます。自分はモロにそうですね。ライヴの途中でも「今弾いたところテイク2いきたいな」とか思います(笑)。だからライブは面白いんですよね。

根本的に大切なのは、ベストをつくす準備をしているかということです。いろいろなギタリストがいて、差が出てくるのはそういうところではないでしょうか。お客様に対しては結果だけなので関係のないところですけどね。
僕もお金払ってライブを見にいったら期待をします。でもその期待度と結果というのはなかなか合わないですよね。自分の期待度が間違ったところで上がってしまう時がありますからね。だから、僕はあまり凄いとか言われたくないです(笑)。そういうところは気楽にいきたいですね。

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【New Album】
Back To Basics

Back to Basic

1.Say The Word
2.Too Hot To Handle
3.A Night To Remember
4.Am I Blue
5.Massa Nova
6.The Water Is Wide
7.Happy Heart
8.Short Short Story
9.Will You Be Mine?
10.Close Your Eyes
11.Missing You
12.Make It Funky
13.Live It Up
14.悲しい色やね
15.蘇州夜曲

2014年5月24日発売
日本録音/K-Dol
¥3,000(税込み)


ドルフィンギターズ ショッピングサイト

住出勝則 http://www.masasumide.com/

1956年 京都府生まれ。
1974年フォークグループ「シグナル」に参加、翌年「20歳のめぐり逢い」でデビュー、1983年の解散までシングル14枚、アルバム7枚をリリース。
その後、武田鉄矢、谷村新司らのサポートをこなす。
1996年オーストラリアに移住、ソロギタリストとしての活動を始める。
1999年初のソロギターアルバム「TREADIN' EASY」をリリース。
2002年帰国、日本を拠点にソロ活動を始め、毎年アルバムをリリースしながら、2011年には滝ともはる、矢沢透と「HUKUROH」を結成、ソロ、バンドとも精力的に活動中。

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