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ー9月にはウィンフィールドのコンテストがありますが、どのような気持ちでしょうか。
Shohei:もちろんベストは尽くしますが、それで優勝を期待するのはやめようと思います。僕はカルチャーショックから学べることが多くて、アメリカで弾く時は、僕の個人的な印象ですが簡単に言うと、勢いがある音楽であれば素直に観客が反応してくれます。リアクションが大きいですね。カントリーを知っていることだったり、チェットを知っていることだったり、こういう要素があることがいいというのはわかったのですが、それを例えば、違うカルチャーの日本に持ってくると、ちょっと毛並みは違うけど、一つのフィンガーピッキングの音楽というように見られるだけで、知っているというだけではあまり響かない。去年日本で一年やってきて思ったのは、知ってる、ということを脱しようということです。勉強したことを発表するのではないので、カントリーだからというのではなく、これはいい音楽だから聴いてね、自分はこういう演奏をするんです、というスタンスになりました。アメリカではカントリーだからうけるとか、たまにジャズを弾こうかとか、そういう固有名詞ばかりで考えていたのですが、日本では固有名詞の感覚が違うので、カントリーとかジャズとかを取っ払って、いい音楽をやろうと思いました。カントリーのいいところは何だろう、この曲はカントリーだけれども、自分は何が好きで弾いているのか、チェットやトミーが弾いていたから、というのではなくて、自分はどういう意味で弾くのだろうか。カントリーとかジャズとかの知識がなければ、そういうところを聴いていると思うんです。ここを意識するようになりました。
ージャンルにとらわれず、今まで吸収したものを表現していくということでしょうか。
Shohei:そうですね。自分の色を出していくということです。カントリーやジャズはツールとして考えます。偉大なツールだと思いますが。アメリカにいればカントリーやジャズはファミリーができているし、それだけで仲間に入れてくれます。大きなコミュニティがあり、文化ですし、この文化を学んでくれた外国人という認識で優しく受け入れてくれますね。そこから脱した時、考え直すことというのはありますね。そういう姿勢を持つ事が大事で、日本に来て、今そういうことを学んでいるのだと思っています。
そういう意味を踏まえて、今年はアメリカで弾いてみたいと思います。どういう反応がくるのか、それがコンテストの結果として出てくるかもしれませんし、いろいろな人たちから話しかけられるという形になるかもしれない。今日本で培った視点というのを、生かしたいと思います。こういう風に弾くことを学んだ、ということを見てもらいたいですね。
アメリカでは観客の反応がとても大きく、以前の自分だと、カントリーを思い切り弾いて観客がオーッ!となればそれで満足していたのですが、日本に来たらそういうことがなくなり、こういった反応の大きさだけに捕われるのはやめようと思いました。歓声が大きいのはわかりやすくて嬉しいしリラックスもするのですが、それだと前のままの自分なんです。自分が本気で打ち込んだ音楽が、本気で返ってきたら嬉しいのですが、リアクションって目に見える反応だけじゃないとわかったんです。ただ反応を見て喜ぶのではなく、その反応を得るだけの演奏をしたのだろうかと、自分に問いてみようと思いました。自分が心をこめて演奏すれば、たとえお客さんの反応が静かでも、必ず響いているはず。ライブに関して言えば、自分が心をオープンに演奏した時に、お客さんに少しでも心をオープンにしてもらえるように、楽しんでもらえる工夫も心がけています。
ーそういった考えが、ギタリストの個性につながるようですね。
Shohei:ソロギターというのは、特に素直に出ると思います。その人の人生観とか、その人が見てきたことなどです。面白い人のが方が、面白い音楽だと思います(笑)。 チョン・スンハくんが「THE DUETS」というアルバムを出しましたが、これはすごく面白いんです。ミックスしている時にスタジオで見学させてもらったり、完成盤を聴かせてもらいましたが、曲の順番が田中彬博、小松原俊さん、住出勝則さん、岡崎倫典さん、Aki Miyoshiさん、また戻って、田中彬博、小松原さん、住出さん、倫典さんとなってますが、デュエットでもギタリストの性格が出ているのがわかります。彬博の「Change the World」で始まりますが、とてもグルービーで、次に小松原さんの大人な演奏となり、その直後に住出さんが愉快にビートルズを演奏したりしてます。ギタリストの性格、音楽が出ているというのがよくわかって面白いですね。特に小松原さんから住出さんの曲にいく時のギャップがいいですね(笑)。スンハがすごいのはそれを邪魔しないところです。鏡のようになっているというか、ギタリストの個性を際立たせる演奏をしています。
ースンハくんのアルバムですが、ゲストミュージシャンが目立っているようですね。
Shohei:目立ってますね。ギタリストの性格がよく出ています。僕もそういうのがもっと出せたらいいなと思っています。なので、技術的な練習に集中するのはやめようとも思いました。どうしても音楽大学を出ると、そういうものにフォーカスしがちになってしまいます。音楽理論など、もちろん知っていればいいし、技術はあればあるほどいいというのもあるのですが、人間が面白い方が、演奏も面白いと思います。今年は意図的に技術向上のための練習ではなく、自分の気持ちが素直に出るような練習をしようと考えています。
あと、今年はチェット・アトキンスにこだわろうと思っています。そういうとカントリーにこだわるように聞こえますが、そういったところではなく、カントリーがきっかけでチェットに出会えましたが、チェットの弾き方、音色、キャラクターというのが、すごいということが最近よくわかってきました。演奏の正確さを見ると、あの人は性質が日本人だと思うんです。ああいうアメリカ人は稀ですね。何故あれだけいるカントリーギター奏者の中で、チェットが教祖のような地位にいるのかは、こういうところではないかと思います。音に真面目な姿勢、エンターテイメントというのではなく、音楽に対して真面目な姿勢があったから皆、崇拝しているのではないかと思うので、こういうところを学びたいと思っています。昔はそれほど興味を持っていなかったのですが、最近はずっとDVDを見ていたりします。端から見ると、カントリーのサムピッキングということになるでしょうが、僕としてはそれを一歩越えて、サムピッキング、カントリーだけれども、そういうのを関係無しに、いいものだということを伝えられるように、チェットが世界中に伝えたようにしていきたいと思っています。アコギはもちろんですが、ケンタッキーのコンテストでもらったグレッチのエレキが家で眠ってるので、これを出してあげてエレキも使って、フィンガーピッキングをしていきたいとも思っています。エレキギターは仕事で弾いてはいましたが、それほど真剣に取り組んだことがないので、新たな勉強にもなるのではないかと思っています。
ー今年の目標はまず音楽性のことと、チェットを突き詰めていくというところでしょうか。
Shohei:その他にも、まだ日本に来て1年ですので、もっと慣れて自分からライブをしていきたいと思います。去年は彬博に頼っていた部分が多かったし、いろいろなところに行きたいと思います。
あと、彬博とアルバムを作りたいと思っています。曲は大分たまってきましたからね。ゆっくりですが、少しずつ進めていきたいです。ソロのアルバムはまだ考える余裕はないですけどね。
他にも京都でアイリッシュバンドを組んでいて、僕とフルートとヴィオラの3人で活動しています。ここでもCDを作る可能性はあります。今回東京に来たのも、ヴォーカルの大和田慧さんとのレコーディングが目的でした。いろいろライブのお誘いがあって、ライブ中心のようになってしまいましたが(笑)。
ー最後に、ギターファンにメッセージをお願いします。
Shohei:僕は良くも悪くも、自然とここまで来れた気がします。いろいろなきっかけや出会いに任せてきました。僕の中では田中彬博がとても大きな存在ですが、彼と出会えたのは偶然です。コンテストは自分としては頑張りましたが、結果に関しては自分でコントロールできるものではもちろんなかったです。ギターがうまくなりたいということでいうと、面白い人間になれば、うまくなっていける気がします。ギターのことが好きで、面白くしたいなと思っていれば、いろいろなきっかけがどこかからか来ると思うし、僕は現在テクニックを磨く練習に重きを置いていません。カントリーとかジャズとかのこだわりや、日本人だから、アメリカ人だからといったことや、コンテストに優勝したいからとかではなくて、ある意味こういったことを捨てた時に、チェットが好きなんだ、ということに気付いたりしました。できるだけ素直に、自分の思ったとおりに弾いたり、ライブをしたり、弾きたい音を弾く練習をすればうまくなるのではないかと、自分にも言い聞かせてます(笑)。フィンガー・ピッキング・デイでいえば、参加者は僕よりうまい人はたくさんいるし、その人たちはその人たちのギターの愛し方があり、その人にしか出せない特徴があると思います。
僕はアメリカへ行くチャンスがあり、日本に戻るチャンスがあり、様々な先生方や彬博のような仲間に出会えるチャンスがあり、トミー・エマニュエルの通訳をするチャンスもあったし、こういったかけがえのない経験が周りからやってきてくれました。そしてそれらに感謝しながら、素直にリアクションできるようにしておくのが大切だと思いました。うまくなりたいから、というので毎日何時間も練習したりということは大切なことかもしれませんが、それだけではないのかなと。
自分で気付くことよりも、周りから教えてもらうことの方が絶対に多いです。例えば悩みがあった時に、一人で考えて結論を出す方がいいのか、信頼する人に相談した方が答えが出るのか、というと、後者の方が解決につながると思います。
自分に素直に演奏することが一番いいことではないかと思ってます。
【2013年1月22日 東京にて】
[次ページからはAcoustic Gutar World vol.40のインタビューです] |
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Shohei Toyoda
1985年静岡県生まれ。
4才の時に父の仕事により渡米。高校を卒業するまでオハイオ州コロンバス市で過ごす。
2004年バークリー音楽院に入学。在学中はGuy Van Duser氏からカントリー音楽におけるサム•ピッキングギターを学ぶ。
2011年アメリカケンタッキー州で毎年行われるINTERNATIONAL THUMB-PICKING Contestにて日本人としては初の3部門総合優勝者, GRAND CHAMPIONに選ばれる。
2012年より京都へ移住。
2012年に全国Finger Picking Dayで最優秀賞、アレンジ賞を獲得。
2013年Walnut Valley Festival INTERNATIONAL FINGER-STYLE CONTESTで3位受賞。
ソロ活動をはじめ、バンドやレコーディングでのサポート等、ジャンルの垣根なく全国各地で音楽活動を繰り広げている。
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「The Hills Have Ears」
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1. It's ok
2. Blessings
3. Selfish Sindbads (by Keisuke Kuwata)
4. Part Time Lover (by Stevie Wonder)
5. Mr. Li
6. Important Things
7. Westland Groove
8. Treelights
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