第7回 この一枚を聴く スティーライ・スパン「Ten Man Mop」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
いよいよ年の瀬ですね。急激な温度変化は人間にもギターにも危険なものです。
寒い外から暖かく乾燥した室内に入った時には、すぐにケースは開けずに、しばらく室内環境になじませる事が優先です。
くれぐれもご注意ください!
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「ブリティッシュ・フォーク・ロックの御三家」という括りがある。
フェアポート・コンヴェンション、ペンタングル、そして、スティーライ・スパン。
こうして御三家と並べてみても、はっきり言って似通ったところがあまりない。それぞれに尖った音楽性を持った3組である。
バンドとしてのクオリティではフェアポートが抜きん出ているし、バート・ヤンシュとジョン・レンボーンという傑出したギタリストを擁したペンタングルも、他に類がない独特の音楽性を持つ。
だが”ブリティッシュ”という括りでいうならば、スティーライ・スパンこそ、その名に相応しいのではないか。理由は簡単で、他の2組にはルーツとして感じる”アメリカ”の色がほぼ皆無だからだ。
特にバンド発起人であるアシュリー・ハッチングスが在籍した初期の3作は名盤で、中でも2作目「Please To See The King 」は白眉と言える。
しかし今回は3作目にあたる「Ten Man Mop」を取り上げたい。個人的にはこちらの方が愛聴盤。
まずはピーター・ナイトのフィドルが大活躍するのも魅力だ。
クラシックの鍛錬を受けたピーターのフィドルは、フレーズの終いまで歌いきる清々しさがある。フェアポートのデイヴ・スワブリックのような妙技で”もっていく”のでなく、あくまで音色とフレージングの濃さで勝負しているのはやはりクラシックの影響か。その特徴は、このアルバムに収められたリールのセットで存分に感じられるだろう。
そしてマディ・プライアの名唱「When I Was On Horseback」が素晴らしすぎる。この一曲にスティーライのバンドとしての矜持が詰まっている気がする。
ソロ歌唱のたおやかさ、重唱の厚み、ヘヴィなリフ、音色の暗さ、ドラムレス編成を活かした重さ。
すべてが調和した瞬間を、この録音は捉えていると感じる。
もう一つのハイライトは、ラストの「Skewball」だろう。
このマンドリンとエレキギターとのアンサンブル。転調を効果的に用いた表現は一種異様な空気を生み出す。
ここでもキーワードは”重さ”と”暗さ”。フェアポートの演奏力を活かした前向きな推進力とは対照的で、このヘヴィなサウンドこそスティーライのアイデンティティと言えよう。
”暗いの”が好きな方に・・・是非ライブラリーに加えてほしい一枚。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2019年11月3日】
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