第10回 この一枚を聴く 運河の紅カモメ「コルウス」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。 現在、竹内いちろさんとのジョイント関東ツアー真っ最中です。素晴らしいギター を聴きながら過ごす、とても良い日々となっています。 今回は話題となっている「運河の紅カモメ」の1stアルバムをご紹介します!
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ハンマー・ダルシマーの小松崎健。ギターの浜田隆史。ヴィオラの三好紅。 この3人によるユニット「運河の紅カモメ」の1stアルバム「コルウス」がリリー スされた。
ダルシマーは打弦、ギターは撥弦、ヴィオラは擦弦と、異色の弦楽三重奏である。
私はメンバー3人のそれぞれとロングツアーをしたことのある唯一の人間だ。
このアルバムを解説するのに、3人と音楽を作りながら旅を重ねてきた私以上にふさわしい者はいないと自負している。
内容としては、浜田隆史と小松崎健のオリジナル作品を中心とした親しみやすい音楽が収められている。親しみやすいとはいえ、そこに「安直」の文字は皆無で、実に練られたサウンド、編曲が各曲に施されている。曲の良さに逃避せず、アイデアを吟味してきっちり落とし所を見定めたサウンド。これは、”何度も聴きたくなるアルバム”の特徴と言える。
小松崎健のダルシマーの響きは曲にヴィヴィッドな色合いを差し込み、同時に打弦時のアタック音は曲のグルーヴのポイントを提示する役目も担っている。
浜田隆史のギターは常に冷静で、曲の表情を裏支えしながら他の2人を自由に泳が す余裕すら感じる。名人芸に走らずに曲構成に献身し続けるプレイは、彼の作曲家としての力量と直結するものだ。
三好紅のヴィオラパートがあってこそ、このアルバムのサウンドが完成したと言えよう。それほど彼女の作るカウンターメロディは美しく伸びやかで、同時に的確で ある。
全15曲聴き所満載だが、白眉は「夕暮れのカブトガニ」と「能見台」だろう。3人ならではの味わいが最も出ているトラックと言っていい。どちらも浜田隆史のペンによる名曲。浜田曲は、どこまでも親しみやすく簡潔でいながら、”構成物”としてもきっちり機能するところに大きな美点がある。長年クラシック・ラグタイムの形式を研究、自作しながら、世界中の音楽に親しんできた彼にしかできない作曲の世界観だ。
「夕暮れのカブトガニ」は、美しいギターアルペジオにたおやかなヴィオラの音色が乗り、Bパートから登場するダルシマーがサウンドを引き締める。転調してからは ダルシマーが哀愁あるメロディを奏でる。そして裏にまわったヴィオラパートの美しさ。さらにはゆったりした3拍子から快活なワルツに展開させるギター!この4分間 にこのユニットの魅力がぎっしり詰まっている。
「能見台」は浜田隆史にしか書けない、優しさに溢れた名品。あまりに親しみやすいメロディなのでつい聴き流してしまいそうだが、そうならないのは、この作曲に おいて”安直な処理”をした瞬間が皆無だからだ。変拍子を取り入れた各パートへの転換の見事さ、そこにヴィオラのカウンターパートが舞い立つ瞬間が良い。小松崎 健のダルシマーはその音色だけでなく余韻も駆使する名人芸で、そのニュアンスの 種類において類稀なる奏者と言える。
小松崎健と三好紅のデュオでの「虎杖」も素晴らしい。
これも浜田楽曲だが、この透明感を抽出したのは小松崎健の感性である。後半のダ ルシマーでのBパートメロディ。音量的には最小のポイントで、ここが楽曲の頂点と 思わせる芸格の高さ。ヴィオラのオブリガートも出色の出来で、思わず涙を誘う。
浜田隆史の音楽を理解した演奏者に囲まれ、浜田曲はこのアルバムで大きく実を結んだと思うのは私だけではないはず。
小松崎健の楽曲は、このアルバムに一種伝統的かつ原色的な彩りを添えている。冒頭の「ドルイドの唄」の浮遊感、「珠江」の懐かしさ、「荒野のコンドル一家」の 大見栄切った劇中歌。どれもがはっきりとした性格を持つ楽曲で、爽やかに楽しい。
このまま全曲紹介したいところだが、個人的には浜田隆史と三好紅による「オンコの実」と三好紅ソロの「鳥の歌」も、充実した音楽が聴ける隠れベストテイクだ。
素晴らしい音楽が世に出た瞬間に、こうして友人として関われたのは幸せに思う。
運河の紅カモメ「コルウス」。すべての人に強力におすすめする。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2020年3月1日】
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