第11回 この一枚を聴く The Band「Music from Big Pink」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。 コロナウィルス感染拡大に伴い、業種問わず、皆様大変な時間を過ごしておられると思います。
私もライブがいつくも中止、延期となり、音楽活動が非常に難しい状況となっております。
とはいえ、この状況に絶望し震えているだけでは、やはりミュージシャンとしての矜持に反します。
今後も、できる限り精一杯のことに取り組んで参ります。
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問答無用の名盤であるが、これほど聴き手によって印象が異なるアルバムも珍しいのではないだろうか。
私は中学生の時に初めて聴いたが、はっきり言って良さがわからなかった。各人のプレイも、楽曲も、一聴して”普通”だと感じる。
「普通」
ここがポイントだと思う。当時は普通すぎる偉大さに気づかなかった。
しかし聴くほどに、奥深い音の数々に気づいてゆく。
その音のきらめきを足場にして、楽曲の魅力が少しづつ滲み出てくる。
そういうプロセスは、まず10代の青少年にはわかりにくいと思う。
自分の場合は、リヴォン・ヘルムのドラムがきっかけだった。
この人、もしかしたらめちゃ素晴らしいのでは・・と気づいてから、楽曲を聴く楽 しみが生まれ、面白いことに他のパートの味わいがわかるようになってきた。そうなってくると、バンドサウンドが強固な塊となって迫ってくるようになる。空気を 捉えた録音もそれを助長する。
リヴォン・ヘルムのドラムスの足取り、ガース・ハドソンの音色と旋律の選び方、リチャード・マニュエルの歌声、ロビー・ロバートソンのさり気ないカウンターパートとソングライティング、リック・ダンコの粘りのあるベース、それらは個々に切り離した瞬間にきっと空中分解する。
素晴らしい歌い手が3人揃っているのも、彼らのアルバムを楽しめる大きな要素 だ。
個人的にはリチャードの歌唱が好き。
冒頭の「Tears Of Rage」から年齢不詳の渋い歌声に参ってしまう。
自作の名曲「In A Station」「Lonesome Suzie」。
ディラン作の「I Shall Be Released」は裏声での名唱。
大名曲「The Weight」では、リヴォンとリックの名歌唱が聴ける。
しかしてこの曲の肝はドラムだ。ドラム聴いてるだけで飯5杯いける。
他のアルバムもそれぞれ好きなのだが、アルバム単位で聴く時はいつもこれを手にとってしまう。
ちなみに1曲単位でだと、次作「The Band」収録の「Up On Cripple Creek」 がキャリアを通してベストテイクだと思う。
何かがこの瞬間にはじけた、バンドの魅力に溢れた名演だ。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2020年4月4日】
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