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アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。 いよいよ大変な時期になってきました。今まで当たり前のように集まり、演奏し、 各地を旅してきましたが、そんな活動がこんなにも難しくなるとは。人類は誰にも 想像できなかった世界を目の当たりにしています。 私もライブがいつくも中止、延期となり、音楽活動が非常に難しい状況となってお ります。 とはいえ、この状況に絶望し震えているだけでは、ミュージシャンとしての矜持に 反します。 こんな時こそ、少しずつでも作品を作っていきたい。作品の中で皆様にお会いでき ることを楽しみにしております。  
 
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 アイリッシュを中心に、深く音楽を追求し続けるギタリスト山本哲也さんの3枚目となるソロアルバム『INTO THE WORLD』を紹介させていただきます。この4月にリリースされたばかりです。 
  
 私と哲也さんとの出会いは北海道でした。 
私が北海道でソロツアーをしているタイミングで、小松大さんと哲也さんの デュオも来道しており、昼間の私のライブになんと小松崎健さんと3人で来てくれたのです。 
私もその夜、小樽での3人のライブを見に行き、とても濃い1日となったのでした。 
 
 昨年から今年にかけて、哲也さんとジョイントでライブを企画するようになり、間近で見る彼のプレイに毎回感銘を受けています。 
哲也さんは、きれいな素材がそこにあったとしても、決してきれいなままでは出さない。自分の視点、演奏力で鋭く素材をえぐってきます。その結果生まれてきたものは、さながら彫刻作品のように主体性を感じさせます。 
 
 今回のアルバムでは、なんと私の曲『Inner Medium』も素材の一つとなりました。友人として、ミュージシャンとしてとても誇りに思います。 
これは私にとって非常に素直な曲で、遠いところにあった想念がそのまま手元に来たような生まれ方をした曲でもあります。 
彼のアレンジを聴いて感じたのは、強烈な”楽曲への視線”です。「この曲からこれを受け取った」という意思ですね。 
この曲は同じ音型を繰り返しながら展開する曲です。冒頭10秒を聴いてもら うとすぐにわかるのですが、彼は同じリズムのフレーズ4つに対し、全て別の 表現を選択しています。リフレインを強調する私のオリジナルとは別の、大きなうねりがこの曲にあると示してくれました。Bメロがまた泣ける・・ 
 
 浜田隆史さんの『虎杖』では、非常に牧歌的な風景が印象的です。私の曲と は一転してほぼインテンポを選択し、持ち前の深い音色と節回しの妙で4分半を一気に聴かせてくれます。 
  
 『Craggy Pinnacle』では、彼のアイドル、アル・ペタウェイのレパートリ ーを取り上げています。アパラチアン・バンジョーを模したギターワーク は、本家の切れ味にも迫り、しかも哲也節の滋味溢れるトラックとなっています。 
 
  ハイライトは再録となった『The Coming Of Spring』(Jens Kommnick)でしょう。前回よりエッジが立った録音で、メロディの主張が強くなり、楽曲の持つ力をより浮かび上がらせています。 
低音部で始まるAパートは、まだ冬の、土の中の様子。高音で花開くBパートは、春の訪れ。前回の録音では冬のパートが穏やかな冬眠のようなイメージ だったのに対し、再録では冬の厳しさにも、そこに耐える人々の生活があ る、そのようなストーリーが浮かびます。どちらも素晴らしい演奏ですが、再録のコンセプトは、より能動的になった”冬”のパートにあるのでは?自分なりにそのように感じています。 
 
  「来たるべき春を待つ」この曲のテーマは、まさに今の世界にピタリ合致したものです。 
 数年後、2020年を思い返した時に、哲也さんの奏でる『The Coming Of Spring』が、心に深く根ざしている気がします。 
  
    
 
 
 
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com 
   
  1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。 
  1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。 
  2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。 
  2001年1stアルバム「String Man」リリース。 
  2002年2ndアルバム「Slow」リリース。 
  2007年3rdアルバム「海流」リリース。 
  2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。 
  2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。 
  2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。 
  2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。 
  2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。 
  2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。 
  2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。 
     
    
   
  
【2020年4月4日】 
           
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