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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


第13回 この一枚を聴く フェアポート・コンヴェンション名盤の数々

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。 今回の「この一枚」は、フェアポート・コンヴェンションの代表的名盤達をご紹介します。

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ロックバンドの形態で英国民謡を取り入れた先駆者として有名なフェアポート・コンヴェンション。
しかし元々の彼らは質の良い自作曲を中心に演奏するフォークロックバンドだった。

3rdアルバム「Unhalfbricking」で取り上げたトラディッショナル・バラッド「船乗りの生涯」は、フィドルのデイヴ・スワブリックが加わった記念碑的名演。今後のバンドの方向性が、このセッションでハッキリ固まってきたように感じる。 それがトラッドロックの大名盤「Liege & Lief」に直結した。

Unhalfbricking Liege & Lief

左:「Unhalfbricking」右:「Liege & Lief」

「Liege & Lief」は、ザ・バンドの名盤「Music From Big Pink」に見られる手法 に影響され、郊外の一軒家でリハーサルをくり返しながらの録音だったらしい。 アメリカのルーツに根ざしたアルバム「Music From Big Pink」の英国版というにとどまらず、独自の輝きを放つ素晴らしい内容のアルバムだ。

ここでのサンディ・デニーの歌唱は鬼気迫るものがある。
リチャード・トンプソンのギターも独自のうねりを発揮し始め、デイヴ・スワブリックのフィドルとの競演はバンドの最大の見せ場となった。
アシュレイ・ハッチングスの冷静なフレージングのベースとデイヴ・マタックスの締まりのある音色のドラム。 この時期のフェアポートをベストとする声も多い。

しかしこのアルバム発表後、中心メンバーであったサンディ・デニー(vo)とアシュレイ・ハッチングス(b)がバンドを脱退する。
ベースにデイヴ・ペグを加え、ボーカルはフィドルのデイヴ・スワブリックが主に受け持つようになった。

この編成こそ、私が最も惹かれるフェアポートだ。

圧倒的存在感の女性vo.として看板だったデニーと、バンドを自国民謡へ方向転換させた張本人であるハッチングスの穴は相当大きかったはずだ。
しかし面白い事に、女性が抜け男所帯となると、その元来備えていたとんでもない演奏力に焦点が当たってくる。
この時期のフェアポートは一番のびのび演奏しているように感じる。

ヴィルトゥオーゾ集団特有の緊張感。
同じ英国民謡系バンドでも、スティーライ・スパンのどす黒い緊張感とは全く異なる。
スティーライの特徴であったのは、ドラムレス特有の間を活かしたアレンジの緻密さ。
対しフェアポートは各人の演奏力とセンスでグイグイ押してくる。
フェアポートのメンバー個々の芸格の高さと個性は、どのバンドよりも際立っているとさえ感じる。

そして発表された「Full House」は、「Liege & Lief」と並ぶフェアポートのもう一つの頂点と称されるようになる。

Full House
「Full House」

そしてライブ盤「House Full」は、「Full House」の編成で残された超絶盤。 その演奏力のピークが感じられる瞬間の記録である。

個人的にフェアポートの中で最も好きなアルバムだ。

House Full
「House Full」

圧巻は「Sloth」。
リチャード・トンプソンのリード・ギターは、神がかっている。 こういうソロをとれるのは後にも先にもトンプソンだけだろう。 ブルースに走らないフレージングは、フィドルやバグパイプから受けた影響なのかも知れない。
とにかく一度聴いたら忘れられないソロだ。

ここにもう一人の鬼神、フィドルのデイヴ・スワブリック。 トンプソンと絡む「The Lark In The Morning Medley」など、一種のカオス状態といった趣になる。

リズム・ギターのサイモン・ニコルも全編にわたり、切れ味鋭いカッティングでリードする。
彼のフルアコから紡ぎ出される分厚い音色は、バンドの様々な要素の受け皿となっている。

そしてドラムスのデイヴ・マタックス、ベースのデイヴ・ペグの最強リズム隊。 タイトな音色を自在に叩き分けるマタックスに、腰の入った重厚な安定感をもたらすペグは、まさに英国男の体臭がぷんぷんする組み合わせ。 「Jenny's Chickens/The Mason's Apron」でのマタックスの凄まじい叩きっぷり は必聴。

全曲名演の嵐だ。
長距離運転の時など、これを聴くと眠気が吹っ飛ぶこと受け合いだ。





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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

伊藤賢一

【2020年6月2日】

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