第15回 この一枚を聴く トスカニーニ指揮:NBC交響楽団「ロシア管弦楽曲集」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回の「この一枚」は、クラシックの名盤をご紹介します。
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イタリアの名指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ。
ドイツのフルトヴェングラーと対をなす巨匠として、戦前~戦後の動乱の20世紀を代表する大指揮者です。その実際のライブ演奏に触れたことのある人達はそろそろいなくなってしまいますね・・・。ラジオで定期的に演奏を続けたトスカニーニは、幸運にもたくさんのディスクが残されているので、現代の私たちもその至芸に触れることができます。
その演奏は強靭な意志と共に美しい歌心があり、オーケストラの統率感も並外れたものがあります。
フルトヴェングラーを「重厚」とするならば、トスカニーニは「透徹」でしょうか。個人的に最高に好きな指揮者の一人なのですが、残された録音には非常に不満があります。
どういうわけか金管が強すぎるものが多いです。
1950年代のベートーヴェンや、ドヴォルザークの「新世界より」など、演奏は素晴らしいのにバランスが悪くて入り込めないのが残念です。1930年代のベートーヴェンは演奏も良いし金管とのバランスも悪く無いのですが、いかんせん全体の録音が古い。戦前期に活躍した巨匠の演奏に接するときには、音質でのこうした問題点が常に付き纏います。
その中で、私が最も良い録音だと感じているのが今回紹介するディスクです。
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲をメインに、幻想序曲「ロメオとジュリエット」、プロコフィエフの交響曲第1番、グリンカとリャードフの小品が連なります。
メインを張るチャイコフスキーとプロコフィエフが特に素晴らしい。
チャイコフスキーはバレエ組曲という事を完全に忘れてしまうほど「オーケストラ」のための作品として取り組まれていて、チャーミングな数分の中に、並外れた熱量が詰め込まれています。
特に「行進曲」は怪演です。オーケストラの数十人が、ここまで合うものなのか・・と、聴くたびに信じられない気持ちになります。トスカニーニの迷いのない振りっぷりと、濁りのないオケの精度。特に弦セクションの合い方が壮絶ですね。 前述した金管が強すぎる録音だと、この弦の素晴らしさが充分に表れないのが実に勿体ないのです。
変幻自在なフレージングを散りばめたロメジュリ、色彩感が素晴らしいプロコも、弦セクションの素晴らしさが充分に活きてこそこの名演です。
クラシックが苦手という方にも、ぜひ一度聴いてみて欲しいですね。
オケの醍醐味を、3分程度の親しみやすい小品の中に見事に凝縮している、素敵な一枚です。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2020年8月4日】
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