第20回 この一枚を聴く Cusco「Cool Island」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さま明けましておめでとうございます!ギタリストの伊藤賢一です。
色々とあった2020年も終わり、新しい年です。今年こそは、世界が良い方向に向かうことを切に願っております。
今回は80年代ニューエイジブームの真っ只中にあったユニット「Cusco」をご紹介します。
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現在では「ファンタジックな土地」といえば北欧やアイルランドになるでしょうか。
しかし、1980年代の後半期。 「ファンタジー」といえば、それは「南米」のことを指していました。今となっては、「そんな時期もあったと思う・・・」くらいの記憶ですが。
時はワールドミュージック・ブーム前夜の時期。そしてシンセサイザーの興隆。
さまざまな要素が相まって『環境音楽』なる謎のジャンルが生まれます。環境音楽とニューエイジとアンビエントとの違いが今ひとつわかってませんが、要するにヴァンゲリスやエニグマ、喜多郎、そして映画「ピアノレッスン」以降はなぜかマイケル・ナイマンなどがこの系列の棚に並んでいたのは確かな記憶です。
そんな棚にあった、Cusco クスコ。
もろ「ヒーリング」系のジャケット。買って聴いてみると内容もモロヒーリング。
とはいえ、当時好きだったフォルクローレ風の音使い、ケーナの音色をシンセサイザーで表現するスタイルが結構好きで、気づいてみたらアルバムをコンプリートし ていたという・・・
アルバムタイトルも「インカ伝説」「惑星旅行」など、ヒーリング系のテーマによくあるやつ。
とはいえそういうベタなキャプションネタっぽい手法も好きでした。
その中でもよく聴いたのがこれです。
「Cool Island」。
曲タイトルを見ると 「南極大陸」「ペンギンダンス」「氷山」「ツンドラ」など、ここでも徹底してキャプション的手法に終始した潔さ。
それでいて、楽曲自体は美しい旋律が多く、素直な展開と共に初耳から楽しめるの が良いです。
その中でも良いトラックが「オーロラ」そして「哀しみのクジラ」でしょう。
前者はなんといっても生のアコースティックギター伴奏が効いていて、美しいメロディとのバランスも良い佳曲。
後者は壮大なテーマで始まり、そのテーマが後半にエレキギターで歌い上げられる。このギター、難しいことをやってるわけではないのですがけっこう好きなんですよね。
後になってこの「哀しみのクジラ」のテーマが、13世oお紀の吟遊詩人(ミンネジンガー)、ロイエンタールの作だと知った時には一人で盛り上がりました。
(クレマンシック・コンソートの「古笛の響き」というアルバムで聴くことができます)。
中世の旋律を、このような現代のコンセプトに持ってきてしまうとは、Cusco主宰 のマイケル・ホルム、そしてサウンドデザイナーのクリスチャン・シュルツ恐るべし。
「古楽」が10数年後にファンタジーの泉として機能する世界を、彼らは予見してい たのかも知れませんね。
音楽ファンの間ではとかく軽く見られる「ニューエイジ」ですが、その中でも大仰 な方向に振らず、あくまで人間臭い音楽を求めて行ったユニットなのではないかと思います。
ご興味のある方はぜひ聴いてみてください。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2021年1月3日】
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