第23回 この一枚を聴く Pentangle「Cruel Sister」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回は意外にも初登場、ペンタングルの名盤です。
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私の高校時代後半はジョン・レンボーンを中心に回っていました。 ジョンのソロ作に加え、当然ペンタングルも愛聴しました。
メインボーカルにジャッキー・マクシー 、ギター&ボーカルにジョン・レンボー ン、バート・ヤンシュの2大名手、リズム隊がダニー・トンプソン(b)とテリ ー・コックス(dr)。
このアンサンブルは奇跡の瞬間のように感じます。ペンタングルのフォロワーって いるんですかね?聞いた事がないです。まあこのレベルのギタリスト2人はまず揃 わないでしょうね・・・
ペンタングルは「溶け合う」アンサンブルではなく、各個性のぶつかり合う、スリ
リングな展開が持ち味です。
孤高のシンガー・ソングライターであるヤンシュと、懐古趣味のレンボーンとでは共通点より相違点の方が見つけやすいし、そこにジャズ畑のリズム隊とキッチリ民謡を歌うマクシーが絡むのだから、スリリングになるのも無理はありません。
1st~3rdアルバムまではそんな組み合わせの妙が全面に出ていて、それでもバランス的にはヤンシュの色が濃いような印象です。
それでいてサウンドとアレンジは変幻自在で、誰にも真似できない世界を作り上げています。
さて、このアルバム「クルエル・シスター」は4作目。
ここでは完全にトラディッショナル路線の彼らが聴けます。
マクシー及びレンボーン主導のコンセプトである事は明らかで、レンボーンにすっかり魅了されていた私にとっては当時、ペンタングルで一番好きなアルバムでした。
特にタイトル曲「Cruel Sister」の淡々とした切なさには大いに影響を受けまし た。
原曲はイングランドに伝わるバラッドで、中世騎士と姉妹の三角関係がもつれ、殺人事件に至った物語を歌っています。
英国バラッドにはこういう血なまぐさい題材が多く、しかも旋律がやたら美しいので余計に不気味さを醸し出します。
ここにはスリリングな展開もハッとするようなプレイも出てきませんが、7分間身 を浸すように聴くのが好きでした。
この7分間は夢の中の世界。いつか自分も、こうして好きな音楽を残せる日が来る のだろうか・・・そんな事も考えながら聴いていた気がします。 私は当時からこのような抑揚の薄い音楽を特に好む傾向があり、ハッとする響きの 斬新さや技巧の冴えなどよりも、淡々とした中に何かを見出す感覚が好きでした。
珠玉という言葉がふさわしい一枚です。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2021年4月1日】
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