第24回 この一枚を聴く June Tabor「Abyssinians」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回は数あるジューン・テイバーの名作の中でも個人的に愛聴している「アビシニ アンズ」をご紹介します。
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ジューン・テイバーは英国の国宝的歌手と言って良いでしょう。
個人的には女性ヴォーカルの中で1,2を争うほどファンです。
彼女には「これはいまひとつだな・・・」という作品が無いですね。私が知る限りどれも名作だと思います。
彼女の歌は独特な安定した倍音感を持ち、落ち着きと優しさを常に感じさせるものです。
そして孤高な寂しさをたたえた歌い回し。
彼女が歌えばなんでも名演になってしまうのではないかと思うほどです。
編成もキャリアを通してほぼ一貫しており、無伴奏歌唱、ピアノ伴奏、ギター伴奏、ストリングス、そしてそれらの組み合わせ。
渋いです。そこにあるのは音色と間の世界。
無伴奏歌唱からストリングスが加わる冒頭の「The Month Of January」とラストの 「The Fiddle And The Drum」は、一種異様な、現実離れした世界へいざなってくれます。長い無伴奏からストリングスが加わり、緊張が溶けてゆくと同時に別の 緊張感が立ち登るのが快感です。この2曲曲はとにかく必聴です。
マイク&ラル・ウォーターソン作の「The Scarecrow」も飛び抜けた名演名唱。
マーティン・シンプソンのギターが格別に素晴らしく、静謐感とアグレッシヴさを演出しながら、バックの低弦ストリングスと共に歌を引き立てます。
「A Smiling Shore」もシンプルなピアノ伴奏と合まって美しい。
このアルバムは特に、サウンドの緊張感が一貫していて素晴らしいと思います。
どれかひとつの名曲がフックになるのでなく全体で1枚の作品だと強く感じさせるアルバムです。
全10曲36分。 一気に聴けるのに、内容は驚くほど濃い。私はこのくらいのサイズのアルバムが好きです。
この滋味あふれる世界へ、しばしの時間、旅立ってみてください。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2021年5月2日】
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