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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


第25回 この一枚を聴く GIPSYKINGS「ジョビ・ジョバ~ベスト・オブ・ジプ シー・キングス」

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回は懐かしいジプシーキングスを取り上げます。

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1988年、テレビCMから流れてきた「ジョビ・ジョバ」に感激して、勇んでレンタルCD屋で借りたのがこのアルバム。朧げな記憶だが当時はワールド・ミュージッ ク・ブームで、ジプシーキングスもフラメンコテイストのサウンドが時流にハマり大ヒットし始めた頃だったと思う。

しかしこの盤、CMと微妙に違う。そう、これはライブ盤だ。CMのバージョンはベースが入ってたし。

中身のレビューを読むと、このアルバムはメジャーになる前にリリースされた2枚をカップリングした実況盤だそう。その後プロデューサーのクロード・マルチネス の手によってポップス的な味付けを施されて大ヒットしたものが私がCMで耳にしたものだ。

比べて聴くと、スッキリした音のメジャー盤より、この盤の方が迫力があって断然好きだ。
こういう血が騒ぐような音楽は、ステレオの分離が良かったり綺麗にまとまっているものよりも、ナタでバサッとぶった斬ったような手触りの音が良い。曲間のメンバー同士の掛け声も生々しい。

「ジョビ・ジョバ」はもちろんのこと「情熱の月」「その愛」「夫人」「訣別」あたりの今日は名曲だし、どの曲もメロディが中央にドカンとあるのがいい。 肝心のギターサウンドはアップテンポだろうとスローだろうとルンバのリズム一辺倒で、驚くほど愚直なスタイルだ。この、他に目もくれない弾きっぷりにも影響を受けた。

結局のところ、自分はメロディアスなものが好きなのだ。
しかし「メロディアス」と一言でいっても、どういうものが「メロディアス」であるのか、基準が曖昧なのも事実だ。
自分にとってのメロディアスとは「メロディがある」だけでなく「メロディを活かすサウンド」とセットになっていないといけない。それはソロであろうとバンドであろうと同じことだ。ソロの場合はメロディを活かす和声や伸縮のあるアレンジが必要だし、バンドではメインを立たせるバックの力がないといけない。要するに「単調」ではなかなか「メロディアス」には到達しないのだ。

では彼らの愚直なスタイルの中において、何がメロディを引きたたせているのか。
それは厚みのあるコーラスワークと手拍子、そしてリードギターだ。
ギターストロークの一本気な弾きっぷりとは対照的に、コーラスと手拍子は曲ごとにかなり複雑に出入りしている。彼らのポップセンスの高さを伺わせる。
そしてトニーノ・バリアルド(なんと、あのマニタス・デ・プラタの息子)の見事なリードギターは、間奏部よりも歌の合間でこそ活きている。歌の盛り上げ方がものすごくうまい。

「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」「インスピレーション」など名曲を揃えたメジ ャーデビューの1stも良いが、このほとばしるようなサウンは、売れない時代で こその発露かもしれない。
まだ聴いたことのない方は、ぜひ!

ジョビ・ジョバ~ベスト・オブ・ジプ シー・キングス







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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

伊藤賢一

【2021年6月2日】

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