第30回 この一枚を聴く Gilbert O'Sullivan 「Himself」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回は私の永遠のアイドル、ギルバート・オサリヴァンのデビュー・アルバムをご紹介します。
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ギルバート・オサリヴァン。
小学生の時にTVCMで「Alone Again」を耳にして以来、今までずっと変わらず私のアイドルです。
一言で表すなら、天才的メロディ・メイカー。キャリアの最初から今まで質量共に素晴らしい仕事を続けている彼ですが、「Alone Again」の大ヒットがあまりにもインパクトがあったせいか、彼の事を「一発屋」と勘違いしている人もいるかと思います。
今日は彼の第1作目を取り上げます。
私にとってもものすごく思い入れのある1枚です。
1作目にして、オサリヴァンのアルバムの中では最も特徴のある世界観とサウンドを持っています。
鼻にかかったシニカルな歌いっぷり、中域に厚みにある古めかしいサウンド。
おそらく、デビュー当時の路線は、ちょっとひねくれものな社会派的イメージだったのでしょう。そしてそれが実にハマっています。
しかしこの路線はこのアルバム1作で終了となります。個人的にはこの路線で3枚くらいいってほしかったですが、この直後に「アローン・アゲイン」が大ブレイクしたおかげで、以降のアルバムがかなり垢抜けたサウンドとなったのはかなり面白い 現象です。
デビュー作とはいえ、曲作りは成熟そのもの。
永遠の名曲と呼べる作品が散りばめられ、何度も何度も聴いてしまうアルバムです
。
聴きどころとしては、まずはヒットした「Nothing Rhymed」「Matrimony」 になりますが、個人的にはその2曲に挟まれた位置にある「Independent Air」が アルバム随一の超名曲だと思っています。独自のクローズなヴォイシングのピアノ伴奏に、自由闊達なベース、最高に美味しい合いの手のギター、絶妙なリードで常にイニシアティブをとるドラム。ホーンセクションも時に渋く、時にいななき、全員が楽曲に奉仕しきっている最高のテイクです。曲構成も絶妙で、Aのキーで開始しサビでCに転調しますが、サビの最後でサブドミナントFをフックにF~G~Aと回帰するのが実に見事です。
後半のメインはなんといっても力作「Houdini Said」でしょう。シニカルな歌詞と、ほの暗いドロッとしたサウンドは実に英国的で中毒性があります。 しかしそれに続く「Doing The Best I Can」がまた才気爆発の名曲で、どうやら彼は「たたみかける」のが好きみたいですね。
ボーナストラックのある盤には、名曲「We Will」「No Matter How I Try」が収録されているので、ボーナストラック入りをお勧めします。 個人的には彼の4枚目の「A STRANGER IN MY OWN BACK YARD」と共に最高傑作だと思う1枚です。
「Alone Again」しか知らないよ、という方は、ぜひ彼の深い音楽世界に飛び込んでみてください。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2021年11月3日】
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