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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


第36回 ディテールを聴く ウィングス「Silly Love Songs」

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回は少し趣向を変えて、有名曲を例に、音楽の楽しみ方の一例をご紹介します。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

前提として、音楽の楽しみ方は自由です。

好きなメロディだから、歌詞に共感する、サウンドが耳に心地よい、なんでも良いのです。
また、理由もなくなぜか繰り返し聴いてしまう。という経験は誰しもあることでしょう。

ただ、そういう魅力的な音楽には必ず何らかの仕掛けのようなものがあり、聴き手を誘導する作用が隠されているものです。
音楽の聴き方は自由ですが、だからといって演者側もそれに甘えて「何でも自由だから聴き手に任せる」というテキトーな姿勢でいることはほとんど無いと言って良いでしょう。必ず独自の主張や、自らの感じる面白さを、演者は提示してきます。

そういった「仕掛け」を読み取っていくのは、これはこれでかなり面白いものです。
楽曲のどこをどう聴くか、どこに物語を感じているか、そういった視点の積み重ねは、必ず聴き手の音楽人生を豊かにしていくことでしょう。

今回はその一例として、かのポール・マッカートニーのペンによる超有名曲「Silly Love Songs」(心のラブ・ソング)を取り上げてみます。
この曲の歌詞は、「ポールはラブソングしか書かない」という評論家の批判に対しての、ポールの返答のような内容になっています。
「馬鹿げたラブソングのどこがいけない?」という内容から「愛は馬鹿げたことじゃない」という言葉への発展は、楽天家ポールらしい論理の飛躍を感じますが、そのまっすぐな情熱に思わず感動してしまいます。

自分も大好きな曲ですが、何を魅力に感じているのか、まず挙げていきましょう。
キャッチーなメロディとさりげない主張の効いた歌詞。
クライマックスで3つのパートが見事に重なってくるコーラスワーク。
サウンドの要としての見事なベース・プレイ。
シンプルかつグルーヴィーなドラミング。このドラムはシンプルに聴こえますが、 8ビート基調で後半からの16ビートパートも効いていて、特に細かなハイハットの表現が素敵すぎます。このドラムだけでご飯3杯食える思いです。個人的にはジョー・イングリッシュのベストプレイの一つに感じます。

いろいろと挙げましたが、もう一つ重要なセクションがあります。
そうです。ストリングスとブラスセクションです。 この2つの絡みが本当に言葉になっているというか、楽曲の「物語」として機能しているのです。

楽曲の前半サビへのブリッジでまずブラスが少し登場し、サビではストリングスが伸びやかに歌詞の「~ I Love You」に寄り添います。
そして2コーラス目のAメロではブラスのポップなバッキング。そしてまたサビでは ¥ストリングスの少し控えめな表現。
このように、ブラスとストリングスは基本的に交互に現れては消えてを繰り返します。
そしてこの歌の1番の主張である「愛は決して馬鹿げたことじゃないよ」という言葉の直後の間奏で、ブラスとストリングスが満を持して高らかに合奏する。 これはまるで、主張の違う人間同士が時を経て分かり合えた瞬間のようなよろこび に感じます(実際に歌詞の内容に呼応しているのがポイントです)。
このように聴くと、この間奏こそこの曲の肝心なのではないか。私はそう感じるのです。

この両者の絡みを中心に、今一度この曲を聴き直してみると、また違った表情が浮かび上がってくると思います。ぜひお試しください。

今回は一例としてこの曲を挙げましたが、音楽の仕掛けを読み解くのは一種のコミュニケーションであり、作者の主張を垣間見る大きな楽しみでもあります。
そこに正解を求めるのが目的ではありません。
この曲で私が受け取ったものがあるように、みなさん一人一人受け取る何かがある。
それが音楽の素晴らしさだと思っています。

Silly Love Songs
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

伊藤賢一

【2022年5月2日】

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