第42回 この一枚を聴く Cormac Begley「Cormac Begley」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回はコンサーティーナ奏者、コーマック・ベグリーのセルフタイトル作をご紹介します。
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「ご紹介します。」
とは言ったものの、私はこの楽器にもアイリッシュにも詳しくありません。詳しくは専門家の方々に譲りたいと思いますが、このアルバムの持つ魔力のようなものは門外漢の私にも伝わってきます。
コンサーティーナは蛇腹楽器で、アコーディオンのような鍵盤は無く両側に設置されたボタンの操作で音程を決めていく構造になっています。ボタン式の蛇腹楽器としては”バンドネオン”を思い浮かべる方も多いと思いますが、元々はバンドネオンはコンサーティーナを土台として開発されたものです。コンサーティーナと比べる とバンドネオンはサイズも大きく、音色も艶やかな印象です。
アコーディオンやバンドネオンに比べると、より小型のコンサーティーナの音は素朴そのもの。
私のような、楽器の音そのものが大好物な人間にとっては、まさにストライクな世界です。
しかもこのアルバムは、完全なるソロ演奏を詰め込んだものです。
「ソロ演奏」の世界は特別です。
自分の愛する楽器のみで、音楽の世界を作り上げるスタイル。
これに一度でもはまり込んだ人間は、アンサンブルの素晴らしさを充分に認めつつも、優れたソロ演奏にはシンパシーを感じずにはいられません。
コーマック・ベグリーのソロは、とんでもなく高度な技と楽器を愛でる眼差しに満ちていて、私は共感しすぎてしまって永遠に聴いていられます。
自分の楽器で出せるものを余さずに引き出そうとする気持ちが伝わってくるのです。
冒頭の「Yellow Tinker & Ríl Mhór Bhaile an Chalaidh 」でのノイジーな生々しさがたまりません。馬のいななきの如く吠えるコンサーティーナ。こうしたふかし 音はタブー視されることが多いようですが、コーマックはこうしたノイズも自らの音楽として完全に操ってしまっています。
続くポルカセットも秀逸。
”いなたい”フレーズの中に、鋭利な刃物を忍ばせている感覚がたまりません。単旋律でここまで聴き手を引き込める集中力の凄まじさ。
アルバム全編通して、彼の音楽というよりも彼自身を味わえるような貴重な音が満ちています。
音楽を聴く、演奏する人間は、一度体験してほしい世界です。
いやーはまった。
このアルバムを薦めてくれた山本哲也さん、ありがとうございます!
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2022年11月2日】
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