第43回 この一枚を聴く The Beatles「Revolver」 (2022Mix)
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回はビートルズの名盤リボルバーの最新リミックス盤について記していきます。
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2017年より、ビートルズのアルバムのリミックスが続いています。
”リマスター”と”リミックス”。
最近よく聞かれるようになった言葉です。両者を同じように感じている方も多いかと思いますが、ミックスとマスタリングは全くの別次元の仕事です。
簡単に説明しますと、レコーディングした素材のそれぞれを、どのような位置に組み合わせるかがミックスという作業になります。 ミックスが完了後、レコードやCDといった媒体で実際に聴く状態に落とし込むのがマスタリングです。
つまり、リミックスというのは、アーティストとエンジニア、プロデューサーが”一旦作品として完成の決定を下したしたもの”を根本から手直しするに等しいのです。
今までのビートルズのリミックスは、概ね楽しめるものでした。
もちろん今回の「リボルバー」も、楽しめる事には間違いありません。
”デミックス”という最新技術を駆使して、今まで一つのトラックにまとめられて分離が不可能だったパートをバラバラにして再び組み替えることが可能となり、それによってそれぞれのパートの充実度をアップさせる事に成功しています。特にヴォーカルに関してはいう事がないレベルで、各メンバーの特長や質感がグッと迫ってくるものになっています。
しかし、非常に残念に感じたトラックがあるのも事実です。
結論から申しますと、今回の「She Said She Said」は失敗だと思います。企画 倒れと言っても良い。
この曲が複数のギターパートで構成されていることは周知の事実です。ビートルズとジェフ・エメリック、ジョージ・マーティンが作り上げたモノラルミックスでは、そのギターパートのバランスを絶妙な配分で組み上げられていました。それが今回のリミックスでは、本来埋もれていて良いと判断されたパートが一転主張してくることになりました。これは音楽を尊重するよりも”デミックス”という技術を見せたかったのではないか?と穿った見方をしてしまいます。あえてこのようにした意図を、ぜひ聞いてみたいですね。
そもそもこのアルバムは、モノラル盤ミックスの出来が非常に良いのです。
特に「Taxman」のモノラルミックスは、ステレオ盤では太刀打ちできないレベルの音楽になっています。
和声的展開が少ないこの曲では、それぞれの器楽パートの盛り上がりによって展開 させるのが肝心です。
特に1:54あたりからのギターリフが変形する箇所。モノラル盤ではベース、ギター、ドラムの充実によってクライマックスを見事に演出しますが、ステレオ盤ではシンバルの減衰に影響されて一旦熱量が下がるという悲しい結果になるのです。これは今回のリミックスでも解消されていません。モノラルミックスではこの箇所はタンバリンを強調することでシンバル不在をカバーしています。
このように、音楽そのものを決めるのがミックスという作業です。
リミックスは諸刃の剣。リマスターと違って、エンジニアの方向性に”くさみ”を感じる結果となりやすいものです。
それを踏まえつつ、今後もリリースされ続けるリミックス盤を楽しんでいきたいですね。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2022年12月1日】
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