第46回 モルゴーア・クァルテット「21世紀の精神正常者たち」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回はプログレッシブ・ロックを表現し尽くす弦楽四重奏団、モルゴーア・クァルテットの度肝を抜く名盤をご紹介します。
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現在では「プログレ四重奏団」とも呼ばれている彼らですが、元々はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するために結成された硬派も硬派、実力派も実力派のカルテットです。ショスタコーヴィチ、ボロディン、バルトーク、ベートーヴェンなど、カルテットの永遠の文化遺産とも呼べる作品群による演奏会を重ねています。
そして、プログレッシブ・ロックの大ファンを公言し、故キース・エマーソンとも交流の深い1stヴァイオリンの荒井英治氏の見事な編曲により、この名作は生まれました。
アルバムの第1曲目が「21世紀のスキッツォイド・マン」、ラストが「スターレス」。
キング・クリムゾンの第1期の始まりと終焉をそれぞれに置くプログラムがにくいです。
そもそもアルバムタイトルが「21世紀の精神正常者たち」なのが泣けます。「21世紀のスキッツォイド・マン」のかつての邦題は「21世紀の精神異常者」でした。これが現代の道徳的見地により使用されなくなったことに対する皮肉を込めたものに感じます。「精神異常者」はダメだけど「精神正常者」なら問題あるまい? というある意味漢気を感じる姿勢に賛同します。「スキッツォイド・マン」より 「精神異常者」の方が良いに決まってるんだよ・・・
とにかくこのアルバムはすごいです。
プログレファンならば、とにかく溜飲が下がる内容でしょう。
こうしたクラシック編成でロックをやるという”企画”は数多くありますが、私には彼らだけが”本物”に聴こえるのです。
それは何故かというと、オリジナルのリズム隊へのリスペクトが他のアンサンブルとは桁違いだからです。
プログレやハードロックは、ボーカルが主旋律であると一応は見えますが、他のパートの厚みやフレージング、リフのサイズなどによって主旋律さえも役割を常に変 化させるものです。
”ここの箇所はベースが活きていないと意味がない”
”ドラムが”
”ギターストロークが”
と、力を持つパートが変化し続けるのです。それなのに、譜面づらだけを見てヴォーカルを主旋律として(最も立たせるべきものとして)常に演奏してしまうと、どうしようもなく単調になります。
モルゴーア・クァルテットに限っては、それが皆無です。
例を挙げると、「21世紀のスキッツォイド・マン」の疾走パートでは、チェロがドラムスのリズムとベースを炙り出し、かと思うと特徴的な裏打ちのハイハットはヴァイオリンにも担当させ、リズムの脈が途切れないようになっています。見事すぎる。
どれだけこの曲を愛しているのかが窺え、感動的ですらあります。
とにかく音楽ファン必聴の名作です。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2023年3月1日】
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