第47回 ラファウ・ブレハッチ「ショパン・コンクール2005」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回はショパンコンクール2005のドキュメント的名盤をご紹介します。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ショパン国際ピアノコンクールは、音楽コンクールの最高峰のひとつとして有名です。
ショパンの生誕地ポーランドのワルシャワで開催され、プログラムはショパン作品のみというのも特徴です。
基本的に5年に一度開催されるこのコンクールは、過去に数々のドラマを生んできました。
私の記憶にある中では、1985年のブーニンが最古ですね。
当時は小学3年生でクラシックを聴いたこともありませんでしたが、世間がやたらとブーニンブーニン騒いでいたのが印象に残っています。
後にクラシックを聴くようになり、過去の演奏をいろいろと物色しましたが、1960年のポリーニ、1965年のアルゲリッチ、1975年のツィメルマンは、後世への影響を鑑みても衝撃的な優勝だったのではないかと思います。1980年のポゴレリチも印象深いでしょう。審査員のアルゲリッチが「彼こそ天才」と推したものの奇抜すぎる演奏スタイルが他の審査員に認められず入賞を逃しています。この事件は 彼をヒーローとして世界が迎える結果となりました。コンクールの後、名門グラモフォンからデビューした彼は、その天才を見事証明することとなったのでした。こ のコンクールの影響の大きさが伺えます。
こうした偉大な先人達を差し置いて、私にとって最も衝撃だったのは2005年優勝のラファウ・ブレハッチです。
コンクールでのライブ演奏CDを試聴機で聴いて、その場から動けなくなりました。
ひとことでいうと、圧倒的に端正。
最初から終わりまで、破綻が一切ないスケール(音階)、高貴に澄んでいながらも丸みさえ感じる音色。
完全に手の内に入ったレパートリーでありながら、咆哮の瞬間がみられない。つねに音楽に奉仕する姿勢に徹しているからこそ、万人の共感を得る。こういうピアノは聴いたことがありませんでした。ピアノのヴィトゥオーゾといえば、もう少しパ ーソナリティを前に置いた豪放なタイプが思い浮かびます。彼はリヒテルやアルゲリッチやポリーニなどに比べると明らかに抑制的ですが、その圧倒的な端正さによ って聴き手を興奮に導くという芸風なのです。
最も魅了されたのはスケルツォ第4番op.54です。
彼のような芸風だとマズルカやノクターンはめちゃ良いに決まってるなーという感じで安心なのですが、このスケルツォは非常にわくわくする演奏で、彼の泉が湧き出るようなスケールの完璧さが存分に味わえます。このどこまでも丸みを帯びた音色で弾き切る技術。いやちょっとライブでこれはやばいでしょ、思わず口から出てしまいます。
コンクールのライブなので緊張感が満ちている録音ですが、純粋に音楽を楽しむのとは別物の、勝負を観戦している感覚があります。
もちろん、プログラムには英雄ポロネーズや舟歌、ノクターン17番など名曲の数々が入っており、ショパンのベスト盤としても楽しめます。
この演奏を知って以来、すっかりブレハッチのファンになりました。
ショパンだけでなくハイドンやベートーヴェンなどの古典、バッハにもレパートリーを広げて充実期を迎えている彼ですが、10年後くらいに再びショパン一色の彼を生で聴いてみたいですね。
伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏 TOP へ
伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2023年4月5日】
|