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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


第51回 この一枚を聴く 谷山浩子「宇宙の子供」

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回は谷山浩子さんの名作をご紹介します。

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谷山浩子さんは、日本が誇るメロディ・メイカーであり、最も素晴らしいシンガーソングライターの一人です。近年では、アニメ映画「ゲド戦記」で手嶌葵さんが歌 った「テルーの唄」の作曲者として有名でしょう。1980年代にリリースされた斉藤 由貴さんのヒットでおなじみの「MAY」も谷山浩子さんの作品です。
現在までに膨大な数のソロアルバムをリリースしており、永遠のマスターピースと言えます。

その中で、私がつねに心惹かれる珠玉のアルバムをご紹介します。

「宇宙の子供」
と題されたアルバムですが、1曲目の「よその子」で早々にクライマックスを迎えます。

壮大な展開を持つ楽曲ですが、最も印象に残るのは歌詞の流れです。
詳細な情報は伏せられていますが、家族から見捨てられた子供の心象風景を元に展開します。
描かれる内容は個人の直面するパーソナルな内容ですが、聴き進めていく内に「これは全ての人に関わるものなのだ」という誘導に気付かされます。「きみはよその子」というサビの歌詞が何度も出てきますが、ラスト間際で「きみはよその子、私の子ども」という言葉を当てたのは見事としか言いようがなく、心を掴まれる瞬間です。

谷山浩子さんらしい、ファンタジーへの熱量が感じられる「意味なしアリス」も代表曲の一つでしょう。ナンセンスな歌詞の世界観はまさにマザーグース。言葉のフレーズと、メロディのフレーズが、呼応して合致する快感がクセになります。この曲もラスト間際でどんでん返しがあります。このナンセンスな歌詞の世界は、実はど こにでもいる女の子の空想だったのだ、と。こうしたグローバルとローカルを自在に行き来する手法は、彼女の真骨頂のひとつなのかもしれません。私もこの展開が大好きで、何度もリピートして聴きました。

「沙羅双樹」もこのアルバムの白眉として語り継がれる曲でしょう。
孤独をテーマにした歌詞。孤独を悲観したり、むやみに同調したりせずに、つねに誰かを励ます眼差しに胸を打たれます。「あなたの孤独が、突然私に見えた」という冒頭の言葉に共感する人は多いのではないでしょうか。
そしてメロディが美しい。きれいなだけでなく、こうした深い内容の楽曲にもポップセンスが光っていて、重くならない。これがメロディ・メイカーの美学なのかもしれません。

他にも「きみはたんぽぽ」「ここにいるよ」など、名曲ばかりのこのアルバム。
ぜひ聴いてみてください。歌というのは言葉とメロディでできている。それは単純なようで、実は無限の広がりがある世界だと気付かされる一枚です。




宇宙の子供



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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

伊藤賢一

【2023年8月4日】

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