第52回 この一枚を聴く Neil Young「Tonight’s the Night」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回はニール・ヤングの大名盤登場です。
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中学時代からニール・ヤングの熱狂的なファンでした。
ソングライターとしては、決してメロディ・メイカーではありませんが、ギタリストとしてのアイデンティティーを強く持ち続けるところに憧れました。アルバムのサウンドはザクザクとした質感のバンドサウンドが真骨頂で、どのアルバムも全体的なサウンド・プロデュースがはっきりしており、彼の圧倒的な耳の良さを感じさせます。
そして声。
風貌からは想像できないほど繊細なハイトーンにはノックアウトさせられました。
彼の弾き語りの相棒はマーチンD-45。引き締まった低音、そしてストローク時には 高域が鈴のように鳴る感触。彼のハイトーン・ヴォイスは、このギターの生む「音の壁」にとても良い具合に乗り、また時には溶け合い、相性はまさに抜群です。シンガー・ソングライターの声とギターの相性はなかなか注目されないですが、ニー ル・ヤングとD-45は、(ディック・ゴーハンとD-28などと共に)最高の組み合わせの一つだと思います。
彼のアルバムで最も聴いたのは「After the Gold Rush」と「Harvest」の2枚ですが、受けた衝撃では今回紹介する「Tonight's the Night」(今宵その夜)が上回ります。
このアルバムの経緯としては、彼のバンド、クレイジー・ホースのギタリスト、ダニー・ウィットンと、ローディーのブルース・ベリーという2人の友人が薬物過剰摂取により亡くなるという出来事を受けた泥酔状態のセッションを記録したものです。ほぼ、1973年8月26日の1stテイクで構成された生々しい音楽が収められています。
音楽の喜びは皆無で、黒く沈着した心の奥底を、無理やり渦巻かせ吐き出したような声とギター。歌詞がわからなくても、聴き進めるうちにその音楽の内容に胸が苦しくなってくるのです。
このアルバムはとにかく通して聴いてほしいです。「ここが、どこが」というのが少し憚れるような雰囲気があります。
それでも個人的ハイライトを挙げるなら「アルバカーキー」ですね。ベン・キース のペダル・スティールが醸す空気感がすごいです。
このアルバムの冒頭とラスト(リプリーズ除く)は実はベスト盤に組み込まれていて、2曲は既に知っている状態でこのアルバムを聴きました。しかし!アルバムで 聴くと2曲の物語が全く違うのです。言わずもがな、アルバムとして最初に出会いたかった・・・このアルバムからはベスト盤にカットして欲しくなかったな~というのが正直な感想です。ベスト盤あるあるですね。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2023年9月1日】
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