第55回 この一枚を聴く J.S.Bachの鍵盤音楽(1)
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
寒くなって参りましたが、これからは室内の乾燥がギターにとって危険な時期。湿度計を部屋に設置して、40~60%の維持を目指すと良いでしょう。 今回は私の好きなバッハの「鍵盤楽器」縛りで2曲ほど紹介したいと思います。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
一言で鍵盤音楽と言ってもバッハの世界は膨大すぎて途方に暮れるばかりですが、私が愛聴する曲と、好きな盤をいくつか挙げてみたいと思います。
・6つのパルティータ
バッハの6つのパルティータ(クラヴィーア練習曲第1巻)は、鍵盤音楽の粋を集めたような聴きごたえのある曲集です。組曲の形式としては異なる性質の舞曲を集めたもので、その点「イギリス組曲」や「フランス組曲」と同様です。しかしこのパルティータは前奏曲部にフランス風序曲を置いたり、トッカータを置いたり、また舞曲ではないブレルスカやスケルツォを持ってきたり、より自由度が高く構成され ています。
パルティータで真っ先に思い浮かぶのが、ディヌ・リパッティの「ブザンソン音楽祭における告別コンサート」のライブです。
悪性リンパ腫を患っていたリパッティが、重い症状の中、これが最後と覚悟して行ったライブ。元より甘さを排した端正な歌心で聴かせるリパッティですが、プログラム冒頭のパルティータ第1番の透明さは息を呑むほどです。リパッティの同曲は、健康な状態でのスタジオ盤も残されていますので、ぜひどちらも聴いていただきたいです。
またパルティータ第2番はかのマルタ・アルゲリッチの十八番で、天衣無縫な歌い 込みにクラクラする大名演です。
1番から6番の全曲を楽しみたい方は、グレン・グールドがおすすめです。甘さと熱 を排した究極のリアリズムとも言うべき演奏で、この盤を聴いていると頭が冴える 気がしてきます。じっくり聴き込むも良し、生活の場面に溶け込ませるも良し、ぜ ひグールドの全曲は持っておくと良いと思います。
・7つのトッカータ集
バッハの作品の中では一般的にあまり馴染みがない曲集かもしてません。
1曲が組曲のような内容で、前奏あり、フーガあり、間奏あり、主題も複数現れ、起伏に富んだ長めの曲が7つ。クラシック初心者には少し重いかもしれませんが、 ポピュラーファンでも例えばプログレ好きならばスッと馴染める音楽だと感じます。
見事なフーガがたくさん聴けるのでチェンバロでの演奏は重厚感があります。その中でも曽根麻矢子の演奏は私の青春時代本当によく聴きました。重厚で華やか。胸のすくような快演集です。
個人的に私の最も好きなチェンバリスト、ブランディーヌ・ヴェルレの演奏も見逃せません。 一音一音の歌い込みは、チェンバロという楽器の性質上相当難しいはずですが、彼 女はつねに音の間を表現している稀有な演奏家です。
まだまだ紹介し足りませんが、ぜひ次回以降にご期待ください。
伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏 TOP へ
伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2023年12月1日】
|