第61回 この一枚を聴く 浜田隆史「春の音楽」

アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
今回は日本が世界に誇るギタリスト、浜田隆史さんの新作をご紹介します。

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浜田隆史さんとはそろそろ20年の付き合いとなります。
私とは毎年二人旅と称してでロングツアーを敢行し、楽しい時間をご一緒させていただいてます。
その気さくなお人柄に隠されてしまいがちですが、実は軽く日本を飛び越えて世界でも類を見ない活動をしている方なのです。

・独自のチューニング「E♭A♭C F C E♭」を駆使し、ピアノのために作曲された古今のラグタイム曲をギターに見事にアダプトしている事。

・ソロギタリストとして、「クラシック・ラグタイム形式」を用いて作曲を行い続 けている事。

この2点を挙げるだけでも世界に類を見ない存在なのですが、作曲・編曲共にその質と量が何よりすごい!ギタリストが5回生まれ変わって実現できるくらいの仕事量を、浜田さんは既にされていて、その全てが現在進行形。創作と実演の喜びを、常に持ち続けている。こういう偉人を生で追えるだけで素晴らしいのに、一緒に旅ができる私は本当に幸せ者です。

そんな浜田さんの新譜が「春の音楽」です。
コロナ禍を越えて、皆と春を喜び合いたい。そんな思いが込められた素晴らしい作品です。
「クリサンシマム」「エリート・シンコペーション」「パイナップル・ラグ」など100年以上前に書かれたラグタイムから、ダコタ・デイヴ・ハルによる2012年の 「カービー・パケットのラグ」、また浜田さんオリジナル・ラグタイムの「パイカラ」「ポン・ナイ」といった傑作。

ラグタイムという音楽は転調を含めた形式を持つものなので、音楽の立体感をいかに表すかが楽しみの一つ。近年の浜田さんは愛器マーチンD-18(1952)とのマッチングもあり、音楽の奥行きが増し、見事な音色の世界を獲得されているように感じます。
それがよく表れたのが先の「ポン・ナイ」であり、名バラード「プランクシティー・ダコタさん」であり、「能見台」だと思います。ここで聴かれるギターの音は、まさに「声」であり、「言葉」でさえあります。
ツアーで長く時間を共にした私には、それらの音楽が場面場面と共に鮮やかな色彩 を持って眼前に迫ってきます。

浜田さんはソロギタリストですが、浜田さんの音楽はソロスタイルの枠を最初から飛び越えているように思います。
また、そうやって自由に飛び越えられるのが「ソロ」というスタイルの魅力であったはずなのです。私は、そういう羽ばたきを持つギター弾き、音楽家が好きです。

浜田隆史:https://otarunay.at-ninja.jp/