第65回 Solo Guitar Competition 2024について
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤 賢一です。
去る9月に行われた、第2回ソロギター・コンペティション当日に「総評」を任されました。その時話した内容を、思い出して補足してまとめてみました。あくまで総評ですので、出場者の個人名は出てきません。
とても意義深いコンテストに育っていっているので、ぜひ多くの方に認知していただき、来年以降に繋がっていけば幸いです。
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大変お疲れさまでした。まず何はともあれギター演奏に対する、皆さんの熱量に大きな敬意を表したいと思います。今年も皆さんの熱により、とても良いコンテストを開催することができたと思います。
総評を任されましたので一言述べさせていただきます。音楽というものは、目に見えないようでいて実際的には構成をされて形を持ったものです。構成されたものを演奏するには、構造のひとつひとつをよく見て、演奏に昇華させる作業がどうしても必要になります。「コンテスト」は一種競技的な面も強く持ち合わせているものですから、まずはそうした作業をどこまで詰めてされているか、それはどうしても見なくてはいけない。
ただ一方で、矛盾するようで難しいのが、そうしたひとつひとつを組み上げた先に音楽があるかというと、そうではない。音楽はそれぞれの衝動から生まれるものですから、あらかじめ目標があってそれをクリアするという世界とは別のもの、と私は思っています。つまり音楽をやれはやるほど整った世界とは逆の、敢えて言うならばそれぞれのプレイヤーがそれぞれであろうとする動きを内包してくるわけです。こう、でこぼこしてくるんですね。
(ここから補足)
私の先輩であり親友のギタリストに浜田隆史という人がいます。彼はラグタイムというピアノ音楽に出会い目覚め、それをなんとかして、どうしたらギターで弾くことが可能なのか試行錯誤の末に自分だけの変なオープンチューニングを作り、ピアノ曲をギターにアダプトすることを実現しました。もちろんそのチューニングでオリジナル曲もどんどん書き、演奏するために毎日重い荷物を背負い小樽運河に出かけて毎日ストリート演奏をし、ライブツアーに出たら経費をなるべく節約し安い宿に泊まり、ライブ会場は10〜30人くらいのところを毎日まわる、というようにこう、生活や生き方自体が「らしさ」をまとい、でこぼこしてくる。もちろん浜田さんのようになれば良いのでなく、音楽をやろうとすると、それぞれがどうしようもなくそれぞれであろうとする姿になるものだと思うのです。
(補足ここまで)
ただ、コンテストに出られるような技量を身につけることは、「自分がまだ知らない音楽」という扉を開けるための鍵のようなもので、どうしても必要なものだと思います。皆さんにはギターを弾くという得難い武器があります。その武器を持って、磨いて、今まで触れてきた楽曲やアーティストから更に更にもうどこへでもはみ出して、でこぼこして、音楽を創造していってほしいと思います。
今日の日が、そのための一つの足場になればと願ってやみません。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
【2024年11月3日】
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