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伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏


第73回 雑感note(6)
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回も雑感コラムです。今回は「ギタリストが楽器に求めるもの」と題してつらつら述べてみたいと思います。
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『ギタリストが楽器に求めるもの』

ギターを弾く人ならば、誰しも「理想のギター」を朧げながらもイメージしたことがあるのではないでしょうか。

自分の好きな音が意のままに出せるギター。そんなものに出会えれば、本当に幸せなことだと思います。
誰にでも好みの音色や弾き心地があります。ギターを持った瞬間にピタッと決まるような快感を感じた事はありませんか?プロ、アマチュアに関係なく、モノに対峙する時にはそういう出会い感は大事だと思います。

また「長年憧れてきたメーカーのギター」というのも、理想になり得ると思います。
かくいう私も、ポール・サイモンやニール・ヤングに憧れてマーチンに傾倒し、ジョン・レンボーンに夢中になればフランクリンをどうにか手に入れ、グレッグ・レイクの音色を求めて、あろうことか新品のJ-200を買って大いに後悔したり、色々と紆余曲折しました。
「憧れのメーカー(ビルダー)」という視点は、楽器の姿そのものをシビアに見ていく観点から言えば大きく外れるものですが、自分の経験からいうとそれもアリだなとも思うのです。

「理想のギター」の姿は、(当たり前の話ですが)その人によって変わってくるものです。楽器に求めるものも、人によって千差万別です。
これから私の挙げるあれこれが、万人に共通するものではないことを、最初におことわりしておきます。

ただ、一つだけ断言できることがあります。

「理想のギター」があるとすれば、それは
「その人の理想をはるかに超えてくるギター」
である、ということです。

良い楽器は、現時点でのその人のイメージや美意識を、弾き込んでいく過程で引き上げていくものです。弾いていくうちに「理想」そのものが育っていく、それが良い楽器なのです。

ではそれを踏まえた上で、私自身が考える
「楽器に求めるもの」
を挙げてみたいと思います。

独断と偏見を承知で言いますが私はギターの音が全ての楽器の中で最も素晴らしいと思っています。
ギターで音楽を作っていければ、私はそれで満足です。

ただし音楽を「聴く」となると別です。
ギターの音が素晴らしいからといって、ギター音楽ばかり聴くわけではありません。むしろ私が聴いている音楽の中で、「ギターソロの音楽」の割合は1割・・いや、0.4割くらいかもしれません。

思えばギターというものは不思議なバランスを持った楽器です。

擦弦楽器や笛のように音を自由に伸ばす事ができないにも関わらず
「よく歌える楽器」
と言われ、

1台で音楽を充足させる機能がピアノほど持ち合わせてないにも関わらず
「ギターは小さなオーケストラ」
と言われる。

自分に言わせると、はっきり言ってナンセンスです。
余韻を自由にコントロールできないのに、なぜ「歌える」と言われるのでしょうか。オーケストラは勿論のことピアノと比べても音量のレンジは狭く、弾き分ける声部も限られるのになぜ「オーケストラ」に例えられるのでしょうか。

それらの過大評価は全て、ギターの「音色」に起因していると私は捉えています。

良いギターは、確かに単音を鳴らすだけで音楽そのものといった香りが立ちます。その音が「音楽」であるかどうか、その事こそまさに重要であって、そのほかの機能的な事は、後で何とでも言えるのです。

笛のように音が伸びなくても
音楽的な余韻にヴィブラートをかけたり、前後の音の関係性を組み合わせて「歌」を作る。

オケのように多くのパートを表現しきれなくても音色の変化の多彩さであたかも「オーケストラ」を感じさせる。

ギターの音が「音楽」としてあまりにも魅力的であるがゆえの「後づけ」なのだと私は理解しています。
(独断と偏見は承知ですので反論は受け付けません)

確かに、よく構成されたギター曲を名手が奏でた時には、そのような錯覚に陥ることがあります。
チェロのような朗々とした歌があると思えば、時に牧歌的なホルンが現れ、遠鳴りのようなトランペットを感じさせ、ヴァージナルのような典雅な響きも登場する。
ギターはこうした瞬間のニュアンスに長けています。
「色彩感」はギターに課せられた宿命とも言えるでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、以上を踏まえて私が「楽器に求めるもの」の第1番目は

「音の立ち上がりの良さ」
です。

どんなに音色が良かったとしても、立ち上がりの反応が鈍いギターは私は絶対に使いません。

そして第2番目は

「立ち上がった音が前に出過ぎないこと」
です。

この2つをまとめて「立ち上がりが良い」と言っても良いのですが、私の知る限り、この両者を混合している人が実に多いのです。
つまり「音が前に出過ぎる」事を「立ち上がりの良さ」と捉えている場合が多い。

以下はあくまで私の志向なので薄目で読んで欲しいのですが、要するに弾いた瞬間に「10」出てしまうギターよりも、「0.1」から自分でコントロールできるギターの方が音楽を作りやすい(楽器から刺激を受ける)という事です。

※これはあくまで例です。
「10」の絶対値があるわけではなく、数字を使って比較するとわかりやすいと思うのでこのように述べました※

私の感覚では、弾いた瞬間「10」出てしまった後というのは、ギターの音色のキャラクターに身を委ねる感覚になってしまう。
それはそれで気持ちが良いのです。立ち上がりで「10」という土台ができるわけですから。その土台の上で音を紡いでゆくのは一種の快楽でもある。

ではなぜ自分にはそれが合わないのか。
端的に言うとそういう楽器は飽きるんです。

音楽に親しみ、いろんなニュアンスを知っていくほどに、それを楽器上でやってみたくなる。大事なのはその時に楽器が応えてくれるかどうかなんです。
「10」出る楽器は、その強い性格で音楽の土台を提示してくる一方で、当然のことながら弾き手が求めるニュアンスを制限してきます。
「0〜10」の間は何もしなくて良い。
と言われているようなものです。弾き手の仕事が減るわけです。

もちろん方向性のひとつとして頷ける事だし、現在ではそういったギターの方が主流です(アコースティックギター、クラシックギター共に)。
でもちょっとね・・・嫌なんですよ私は。今後そういうギターばかり巷に溢れ、しかも名器として賞賛され、「0〜10」が抹殺された世界が訪れると考えると、かなり憂鬱になります。



伊藤賢一


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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

伊藤賢一

【2025年7月7日】

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