
第74回 雑感note(7)
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
今回も雑感コラムです。今回は「ギタリストが楽器に求めるもの」の続編をつらつら述べてみたいと思います。
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「ギタリストが楽器に求めるもの」
第3番目は
「正確な音程」
です。
ギターの音程の話になると音程専門家のような方々がこの世にはたくさんいらっしゃるので、ここではあくまで私の経験し感じた範囲で述べます。
ギターはフレット楽器ですから、音程の良し悪しは常につきまとう問題です。
例えば、開放弦でチューニングし終わったあとにローコードのDを鳴らすと4弦開放弦と2弦3フレットとのオクターブ音程が微妙にズレて違和感を感じる、などといった事ですね。
これはかなりグレードの高い楽器であってもしばしば見られます。クラシックギターの歴史的名器の中にも、信じ難いほど音程が合ってないもの(おそらく完成当時から)があったりします。
音程が正確になると倍音の濁りが少なくなり、各音の精度が高まる→演奏のストレスが軽減される。
というのが一般見解だと思います。
ここで音程と倍音という言葉が出ましたが、私も両者の関係性がどのようになっているのか、正確には解っていません。
おそらくですが
音程が精密になるにつれ倍音が整理されてくる要素と、基音と倍音とのバランスによって音程がより明瞭感じられる要素と、どちらも同居している気がしています。
前提としてまず前者が必要なのは言うまでもありませんが、後者はそれを更に引き立てているという感覚です。
実際私の使っているアコースティックギター、Ken Oya(2008)からは、両方を感じる事ができます。
つまり
基音が強めで倍音は広がりと共に奥行きにも作用するという基本的な音
作り。それに加えて正確な音程のセッティング。
この両方が合わさってその楽器の「音程感」が顕れてくる、と言い換える事もできます。
私が初めてKen Oyaギターに触れた時、その音程の正確さに度胆を抜かされましたが、思い返すと度肝を抜いた理由の半分くらいは「基音の存在感」だったような気がします。
6弦のハイフレットと高音開放弦がここまで合うのは、初めての感覚でした。
その頃私は20代後半。
自作のギター曲を書き、ライブできる場所を求めながら這いずり回っていた時期です(今もほぼ同じですが…)。自分に出来る事出来ない事、向き不向きもはっきりしてくる時期。
そこで出会った大屋ギター。
自分にとっては人生における大きなターニングポイントでした。
基音が強い、音程が正確という事は、各音をしっかり分離させることになり、内声部の表現に直結します。
自分が好きな曲はメロディの美しさと共に内声が効いているものが多く、自分の曲を作る時に自然とそこを求めていた事に気づいたのです。
このギターならば、より自分の好きな世界を表せるのではないだろう
か…
要するに
「自分はこれを使いたい!」
となったわけです。
こういう時は何か強烈な引力が働くのか、その3日後に楽器店で大屋ギターと奇跡的に出会い、入手する事ができました。
その後更に直接オーダーしたのが、現在の愛器Ken Oya model-J(2008)です。

今回は幸せな結末となりました。
安心して筆を置きます。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。

【2025年8月1日】
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