
第77回 この一枚を聴く 遊佐未森 「潮騒」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
久しぶりにアルバム紹介です。あの遊佐未森さんの最新作にして超絶名盤を紹介します。
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遊佐未森といえば、1980年代末から90年代、透明感のある歌唱と歌の世界観で一部カルト的とも言える人気を博したアーティストです。
デビュー作「瞳水晶」や「窓を開けた時」「地図をください」など初期楽曲の美しさが個人的に印象が強く、未来への希望を宿したような世界観は、今聴いても胸が熱くなります。
私個人としては90年代中頃からはあまり耳にしなくなり久しかったのですが、ちょうど一緒に私とツアーを回っていたギタリスト小川倫生さんが「今回の新譜はすごく良いらしい」というので早速車内で二人で聴いたのでした。
一曲目から、その歌声に二人で言葉を失いました。
リリース当時57歳。90年代よりも力強くしなやかで、ニュアンスの色彩も素晴らしい。一瞬一瞬つい聴き入ってしまう、そんな音楽が展開しました。
聞くところによると近年体幹トレーニングを取り入れ、その歌声に一層の深みを増すこととなったそう。90年代の歌声が直進的と感じてしまうほど、「今」の遊佐未森は深化をとげていました。
そして、楽曲も粒揃いで聴き進むほどに「おいおい、これはとんでもない名作なんじゃないか」と小川さんと二人で興奮してしまいました。
アルバム全体のコンセプトは「ノスタルジー」だと感じます。
歌詞の世界と、それを膨らませるサウンドメイキングが見事です。
ピアノの弦に紙片や木片をおいて「カタカタ」という手作りSEを織り交ぜる、プリペイド・ピアノという手法が随所に効いていて、これがノスタルジーをより膨らませています。
また、私の一推し曲「I Still See」では、歩道橋の上でふいに立ち止まり誰かを思い出す、という歌詞の世界に浸っていると、間奏で外を歩く足音のSEが入り、これがグッと来てしまいます。足音は一人だけれど、「私」も「私が思い出した誰か」も、長い時間人生を歩いてきたのだ、という描写に感じてしまう。ノスタルジーを表現する手法の見事さに心を持っていかれます。
もう一曲私が大好きなのが「夢見る季節 タルトタタン」。
アレンジが音楽の喜びそのもの。近年聴いた楽曲の中で最も感動した一曲です。
アウトロに向かう間奏で、一瞬のルバートがあり、そこでまた強烈なノスタルジーを感じさせます。ほんの一瞬の仕掛けですが、ものすごく効果を生んでいます。
私はこの曲を思い出すだけで泣きそうになります・・歳のせいかな?
遊佐未森「潮騒」
間違いなく名作です。
YouTubeにもあがってますので、ぜひ聴いてみてください。
「I Still See」
https://www.youtube.com/watch?v=iuW8OcD2ohw
「夢見る季節 タルトタタン」
https://www.youtube.com/watch?v=xvV7mVk30p4

伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏 TOP へ

伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入
学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリー
ス。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリ
ース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
2020年Indigo Noteの2ndアルバム「Long Way」リリース。
2021年7thアルバム「Little Letter」リリース。
2023年ピアノ&パーカッション奏者AkiとのデュオLuna y Alas結成。
2024年Indigo Noteの3rdアルバム「Lively Garden」リリース。
2025年Aki作曲のギター曲「The Pearl」リリース。
ライブ本数は累計1500を超え、現在も常に日本全国で演奏活動を展開中。

【2025年10月1日】
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